ウイルス 公演情報 大駱駝艦「ウイルス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「悲しみ」や「苦しみ」から逃れることができない「人」、実はそれを操っているのではないかという「ウイルス」、そしてそれらの先にある「絶対的な存在」を見つめていく
    創立40周年!
    見始めて15年ぐらいなのだが(天賦典式のほうを中心に)、いつ観ても大駱駝艦は面白い!

    ネタバレBOX

    大駱駝艦の醍醐味は、混沌と猥雑さにあるのではないかと思う。
    毎回あるテーマを掘り下げたり、イメージを膨らませたりしながら、テーマの内と外を「舞踏」で塗り固めていくという印象だ。

    今回のテーマは「ウイルス」。

    震災以降の日本の状況から、人とは? 人の営みとは? そして運命とは? という問い掛けが、麿さんの中で生まれたのではないか。
    「人」をミクロに見ていく中で、「ウイルス」というキーワードが浮かび上がり、30億年生き抜いてきた「ウイルス」にはウイルスの「戦略」があり、「人」は、「ウイルス」によって生かされているのではという命題にたどり着き、この作品の端緒となったのだろう。

    さらにその考えを進めていくと、そもそも「ウイルス」に「思考はあるのか?」「感情はあるのか?」に突き当たり、さらにウイルスの行動から、「運命」とか「偶然」というキーワードが見え、「神」とか「仏」とかという「絶対的な存在」をも視野に入ってきたのだろう。

    例えば、麿さんがフライヤー等で「全宇宙生命の創造と破壊を設計したあなたのゆったりとした微笑に私は哄笑で答えよう ヒトは大悲のウイルスとなったのだから」と述べている中の「大悲」という仏教用語からもそれがうかがえる。

    「悲しみ」や「苦しみ」から逃れることができない「人」と、実はそれを操っているのではないかという「ウイルス」と、その先にある「絶対的な存在」を見つめていく。

    そういう、ミクロからマクロへの、壮大なパースペクティブを描いた作品ではなかったのか。

    その基本テーマに「ウイルス」が置かれた。

    DNAやRNAなどといった、大昔に生物の授業で習ったような語句がシーンタイトルに並ぶ。中でもキツネのP2(FOX-P2)なんていうものは、キツネという訳が面白く、舞踏手によって再現されていたが、彼女が触ると「言葉」を発することから、言語に関する遺伝子だということがわかる(一応、後でネットで確認した・笑)、ユーモアたっぷりのシーンになっていた。

    また、「門」や「羅」は、その語句の通り、生物の分類用語であり(これもうろ覚えだっので、後でネットで確認)、ウイルスたちの反乱だったり、活動だったりが活き活きと描かれていた。
    活き活きしていたのは、このシーンを主に担当した女性の舞踏手たちだった。
    今回の特徴として、抑制された動きに感情を込めているように感じていたいつもの印象とは違い、女性の舞踏手たちの強いパワーを感じたことがある。
    特にメインに感じた高桑晶子さんともうひと方(鉾久奈緒美さん?)の弾けるような勢いとパワーの放出、そして躍動感、つまり生を感じた。
    また、1人赤い花を付けたFOX-P2設定の女性(我妻恵美子さん?)の愛らしさは、他の女性たちが踊る姿とは別の姿を見せてくれた。

    蜘蛛の巣のように張り巡らされたヒモ、ワニなどの小道具のあっさり感も含め、猥雑さ、混沌は、少し影をひそめていたようだ。例えば、麿さんの(赤い)ハイヒールは登場しなかったなど、いろんなモノをそぎ落とした印象だ。

    それは、オープニングの麿さんの姿からもわかる。立っているだけなのに、パワーがある。前に出てきて肉体で誇示するのではない。これだけで「凄いな!」と思った。
    そして麿さんのソロも実にシンプルであったと思う。細かいことはしないで、存在しているだけ、に近い感覚かもしれない。
    その姿は、公演の内容というよりも、麿さんが立っているのは、大駱駝艦であり、大駱駝艦のそのもの姿を観たような気もした。
    今回は、全体的に見ても、舞踏手たちのバランスが非常によく、そのはまり具合は気持ち良かったのだ。

    今回初めて登場した、ジェフ・ミルズの音楽は、いつもの大駱駝艦と同じ印象に感じるほどマッチして、これも気持ちが良かった。もともと親和性がよかったから選ばれたということかもしれないのだが。

    そして、カーテンコールは、いつも通りのカッコ良さ。鳥肌立つ。

    なんとなく少し変わったかも、という印象だった今回の公演。
    ここから新たな変化が訪れるのかもしれない。目が離せないぞ。

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    2012/08/13 03:15

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