病んだらおいで 公演情報 ソラトビヨリst.「病んだらおいで」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    病んでる時代
    “異色セラピストコメディ”とうたっているが、個々のエピソードにホロリとくる。
    出演者も多いがよく整理された構成と充実の劇中劇がテンポよく進み、
    終わってみれば「私も行きたいクリニック」であった。

    ネタバレBOX

    内海心理治療クリニックは、飲み屋街の一角、
    元スナックだった所に開業したクリニックだ。
    カラオケステージやミラーボールがそのまま残っている。
    内海年也(濱仲太)は、押さえ込まれた自分を開放するため、患者に演劇療法を施す。
    ここへ、ヤクザの親分と舎弟、看護師、役者、数学の教師、女子プロレスの選手など
    超個性的な面々が救いを求めてやってくる。

    内海先生が当て書きする台本通りにセリフを言ううち、次第に素の自分が顔を出す。
    堪え切れずに溜め込んでいたものを吐き出し、自分をさらけ出すようになる。
    この過程がとても面白い。
    コメディを面白くするのはマジなキャラと意外なバックグラウンドなのだと痛感する。

    女子プロレスの赤マムシ三太夫(五十里直子)やリストラされた尾久(田口勝久)の
    切羽詰った告白には思わず泣きそうになってしまった。
    国会議員(中山英樹)の横柄な態度が素晴らしく板についていると思ったら
    ゲイだったとわかって、それを隠そうともしないところがまた面白かった。
    このクリニックは元スナックだった場所だが、
    集まった中でも突出して愛想よくチャラい感じの男(濱崎元気)の
    「実はここで店を経営していたのは自分で、破産して店も家族も失った」
    という告白は、本当に切ない。
    ヤクザの親分(二川剛久)と舎弟(原ゆうや)のストーリーには、
    このエピソードで1本芝居が出来そうな重みと悲しみがある。

    笑いながらも共感できるのは、一つひとつのエピソードが現実的なこと、
    劇中劇が充実していて単なる再現ドラマに終わっていないことがあると思う。
    参加者一人ひとりにスポットを当てるなど、照明もわかりやすくよかった。

    全体を束ねる内海先生は常に「大丈夫です、やってみましょう」と励ましてくれる。
    誠実さと温かさが伝わって来てとても心強い先生だ。
    超個性的な相談者をまとめていく説得力とオーラがあって、観ている私にも安心感を与えてくれる。
    彼自身も心に傷があり、それを忘れずにここでクリニックをやっている、
    単なる熱血医師ではないという設定が良い。
    ラスト、みんなでボールを回して最後に死んだ少女が持ったところで
    じいんときてしまった。

    「精神」という言葉の中には「神」がいる。
    この神様は脆く繊細な神様で、この神を守るために私たちは闘っているのだという。
    守りきれなくなったときに駆け込むのが、こんなクリニックであればいいな。
    疲れた夜、だけどこのまま家に帰るのは辛い夜、ここへ来たら少し上向きになるような気がする。
    今日、セラピーを受けたのは、実は私の方だったのかもしれない。

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    2012/07/29 00:07

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