『孤独の惑星 (コドクのホシ)』ご来場ありがとうございました。 公演情報 演劇ユニットG.com「『孤独の惑星 (コドクのホシ)』ご来場ありがとうございました。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    愛の失敗
    フライヤーには赤い大きな星が描かれているが、
    当日パンフでは青い星になっていた。
    この“赤い太陽”と“青い太陽”が交互に昇る惑星は知性を持っていた。
    惑星が知性を持つと、観察していたはずのヒトが観察されるようになる…。

    ネタバレBOX

    友人の数学者柳葉(藤井びん)に呼ばれてその惑星にやって来た
    心理学者冬月(志村史人)は、彼の変わりように驚いた。
    ステーションには他に生物学者の砂川(内藤羊吉)と物理学者猿田(園田シンジ)もいる。
    何か隠している、そしてここには誰か他の人間がいる…。
    そして柳葉が自殺する。

    その夜、冬月が目覚めると死んだはずの妻が部屋にいた。
    妻は彼との不仲を苦にして自殺したはず。
    だが幻ではない証拠に、触れることも会話することもできるのだ。
    恐怖と混乱で我を失う冬月。
    やがて柳葉たちにも同じように誰かが(お客さんと呼ばれている)いることがわかる。
    どうやら一番深い“心の傷”に関わる人物が現われるようだ。
    そしてお客さんを送りこんで来るのは、知性を持つこの惑星の海らしい。

    忘れたはずの傷がリアルに再現されて男たちはふたたび傷ついている。
    今度は失敗しないように努力したり、
    辛くて逃げ出そうとして、お客さんをロケットで宇宙へ飛ばしたり、
    あるいは殺したり…。
    だがお客さんたちはすぐに戻ってくる。
    過去の記憶もなく、無邪気に、「不安だから一緒にいて」と──。

    こうして過去の”愛の失敗”が際限なく再生される。
    忘れようにも目の前に相手がいるのだから忘れられるはずがない。
    科学者を惹きつけてやまない惑星は、同時に深層心理に忍び込んで精神に作用する。
    観察していた人間は、惑星の海に“観察されていた”のだ
    恐怖と懐かしさに翻弄される男たちは次第に疲弊していく。

    柳葉は自殺し、砂川は一人地球へ帰った。
    冬月はステーションから知性の海へと降りて行く。
    ひとり残った猿田は科学者としてこの惑星を離れられなかっただけではない。
    永遠の母親の愛を振り切ることが出来なかったのだ。
    ラスト、知性を持つ海に立つ冬月を、照明が絶望の色で映し出す。

    ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に書いた小説「SOLARIS」が原作。
    あらためてすごい本だと思う。
    「好奇心」と「探究心」に名を借りた人類の傲慢さが完膚無きまでにつぶされる。
    「忘れる」という行為がいかに人を救うか、
    逆に「忘れられない」ことがいかに残酷なことか。

    冬月役の志村史人さん、最初はちょっと格調高すぎと感じたが
    その端正な美しさ故、中盤次第にぐだぐだになっていく変化が際立った。
    柳葉役の藤井びんさん、さすがのくたびれ具合に説得力あり。
    素朴な口調が、翻弄された果てのあきらめを漂わせていた。
    科学で説明のつかない出来事を苦悩しながら受け容れた結果
    どこかで”永遠の愛”を求め続けて破たんしていくプロセスが鮮烈。
    赤い太陽と青い太陽が交互に昇る惑星の時の移り変わりを示す照明がとても良かった。

    この小説から50年経った今、人類はますます傲慢になって他の星を征服しようとしている。
    だがそこがもし、知性を持つ孤独な惑星(ホシ)だったら
    科学者も人類も敗北は目に見えている。
    お得意の「忘れる」行為が許されなくては、人は生きて行けるはずがない。

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    2012/07/23 02:28

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  • 演劇ユニットG.com 三浦 剛さま

    素人の感想文を丁寧にお読みいただきありがとうございます。
    本当に惹き込まれる舞台でした。
    次回も楽しみにしています。
    また素晴らしい作品を拝見させてください(*^_^*)

    2012/08/01 23:01

    うさぎライターさん

    ご来場ありがとうございました。ネタバレBOX、興味深く拝見させて頂きました。
    僕の師匠は「劇作家も演出家も、観客、劇評がなければ自分が『何』を作ったのかわからない時がある」と言ってまして。最近はなるほどなと思っています。

    「忘れる」という行為がいかに人を救うか、
    逆に「忘れられない」ことがいかに残酷なことか。

    ↑この一文に多いに感銘を受けました。

    またのご来場お待ちしております。

    演劇ユニットG.com 三浦 剛(劇作家/演出家)

    2012/08/01 15:58

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