「20世紀少年少女唱歌集」 公演情報 椿組「「20世紀少年少女唱歌集」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    役者の力と演出の力
    客席のあちこちから知り合いを呼びとめる弾んだ声、
    団扇パタパタ、ビール飲みながら開演を待つ。
    見下ろすセットは土埃巻き上がる廃線路引き込み線の奥、野原、立ち並ぶバラック。
    歌謡曲がたっぷり流れて昭和の匂いが立ち上る。
    野外劇の喧騒と解放感が今年もやって来た。

    ネタバレBOX

    紙芝居屋(外波山文明)が自転車をひいて出て来る。
    紙芝居仕立てで客に注意事項を伝え、これも恒例となった
    「花園神社は新宿区の避難場所に指定されております!
     皆さまはもうすでに避難しているのです!」
    という言葉に今年も客席は爆笑、こうして夏の椿組が始まる。

    舞台は関西の地方都市。
    戦争で傷ついた身体を寄せ合うように4姉妹とその家族が暮らすのは
    廃線路の引き込み線の奥にある小さな一角。
    バラックの汚れとしみったれ具合、トタン屋根などがリアルに再現されたセット。
    戸口にかかる布が花園神社を吹き抜ける風でハタハタとひるがえり
    吹きっつぁらしの野原の風が客席まで通る。
    野外劇の土と空間を生かした素晴らしい舞台美術(島次郎)だ。

    国から立ち退きを迫られている場所であり、「むこう」側へ出て行く住民もいる。
    「むこう」は楽園だと信じる若者、どこへ行っても同じとあきらめる者、
    ここに残ってもがいている者、小さなコミュニティは毎日嵐のようだ。

    物語は、4姉妹の長女冬江の娘ミドリの子ども時代を中心に
    長じてミシンの訪問販売の仕事で再びこの町を訪れた彼女の心情を挟みつつ展開する。

    この子ども時代のミドリを演じる青木恵さんが素晴らしい。
    ミドリは「俺は男になって船乗りになるんや!」と叫ぶ“男になりたい少女”である。
    男性が演じているのだと思って当日パンフを何度も見たが
    可愛らしい女性の写真にびっくりした。
    少年役の中で最も男の子らしい男の子だった。
    話す口調、仕草、黙って立っている時から、潔癖な子どもらしさまで
    21歳だという若さだけではない、なりきりぶりと作り込みが素晴らしかった。

    長女冬江役の水野あやさん、美しい人なのに
    徹底的に水商売のケバくてくたびれたおばちゃんになっていてとてもよかった。
    子どもミドリの為に水商売に入ったであろうに、その職業ゆえ
    ミドリから「お母ちゃんみたいになりたくない」と言われてしまう。
    その哀しみが伝わって来て最後じーんとしてしまった。

    次女秋江役の福島まり子さん、“大助花子”の花子みたいなおばちゃんが
    あまりにもハマっていて、大いに笑った。

    三女春江役の井上カオリさん、足の悪い(こちらが痛くなりそうな歩き方が上手い)
    全てをあきらめて笑っている菩薩のような女かと思いきや
    実は自分に正直な業の深いところを合わせ持つ複雑な女を熱演。

    この春江をめぐって男二人が争う場面がものすごい迫力でハラハラした。
    春江の夫役池下重大さんと、夏江の夫役亀田佳明さんが取っ組み合いのけんかをするのだが
    井戸端に置いてある桶の水に顔をつっこんでいるうち、
    亀田さんの口の辺りから超リアルな血が流れて
    客席が一瞬ひやりとしたのを感じた。
    だって血糊をつける暇なんて無かったはずだし、
    でも口からシャツが真っ赤だし、血糊より薄い色だし、あれ本物じゃない・・・?
    大丈夫だったんでしょうか、亀田さん?

    秋江の夫役恒松敦巳さん、片腕を失って尚一家の大黒柱であり、情に篤い男の
    誠実な人柄がにじみ出ていてとても良かったと思う。
    この人が出て来ると場が安定して落ち着く。

    ミドリを含む少年たちの遊びのシーンに、定型でない勢いがあって
    それがテントの中の空気を一気に“あの時代”に変える。
    ストーリー全体に骨太な演出の力強さを感じる舞台だ。
    ラスト、大人になったミドリが、大嫌いだったあの町のあの時代を
    ずっと大事に抱えながら生きてきたことがしみじみと伝わってくるが
    それを丁寧に説明するあまり若干引っ張り過ぎた感がある。
    向日葵のシーンが出色なだけに
    そこへ辿り着くまでが少し冗長な印象を受けた。

    これも恒例の“毎日打ち上げ”と称する公演後の飲み会も楽しかった。
    このセットを組み、芝居をし、バラして、役者たちはまた次の仕事に備えるのだろう。
    21世紀になって、あのころよりずっと暑い夏が過ぎて行く──。

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    2012/07/16 16:07

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