満足度★★★
話さなくても通じ合える。言葉にすると駄目になる。"あいまいさ"をあいまいなまま共有する関係。
青山円形劇場の大ファンです。
冒頭、真っ暗な舞台の中央に回る筒、その内側に照明があり、筒に「切りぬかれた回転木馬」の形が、円形劇場の客席側の壁にぐるりと投影されて、回っています。
(こんな説明で伝わってますでしょうか?)
非常にロマンチックな演出。
これだけでも円形劇場でやる意味がある。
「回転木馬」のバーのボーイ、リリオムは女中のユリと暮らし始める。
リリオムは、非常に粗暴で、ユリにも普段から暴力を振るうが、ユリは彼にも優しいところがあるといい、周囲の心配にも動じない。
しかし彼は、一向にまじめに働く様子もない。
やがて、二人の間に子供ができると、リリオムは悪友に誘われて、大金が手に入る計画に乗るのだが…。
リリオムは、口下手で要領も悪く、物事を上手く伝えられないために、そのもどかしさが「暴力」としてあらわれてしまう。
そのことを、ユリはよく理解している。
話さなくても通じ合える。
言葉にすると駄目になる。
あいまいさ"をあいまいなまま共有する関係。
二人の関係は、その二人にしかわからない絆があるのかもしれない。
物語は、中盤で、大きく転換し、何と天国で裁きを受ける場面に。
これは全く予想していなかった。
時は過ぎ、リリオムは、少し大きくなった自分の娘と話そうとするが、やはりうまくいかず、彼女の手をはたいてしまう。
しかし、娘は「痛くなかった、叩かれたのに温かかった」と、ユリに話すのでした。
自分の心を上手く伝えられない男の哀しさ、と言いたいところかもしれませんが、
私には、何か、DVの言い訳、DVの加害者に都合のいい解釈、夢の話に見えてしまい、どうも釈然としませんでした。
殴る蹴るは愛情表現で、その後は急に優しくなる、まさにこれまでさんざん聞いてきた夫婦間の暴力の話に…。
美波さんの存在感は、優しくてりりしい。さすがです。
娘役、初舞台の武田杏香ちゃんは、素直で、危うい、透き通ったようなそのままの存在感がよかった。
これは、100年前にハンガリーの作家が描いた話で、ミュージカルや映画「回転木馬」になったとのこと。
その話が、今の日本で上演されているという、なんと「奇跡」のような話だと思う。