骨唄 公演情報 トム・プロジェクト「骨唄」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    今も「骨唄」が聴こえる
    再再演とのことだが、私はこれが初めての「骨唄」体験。
    客席に着いた途端泣きたくなるような舞台美術が目に入る。
    そこかしこに死者の気配が漂う千坊村があった。

    ネタバレBOX

    火をつければ勢いよく燃えそうな粗末な家。
    火の見の為なのか、梯子で上がれる高いやぐらが家にくっついて組まれている。
    舞台奥には裏山へ向かう道、手前には町と「エミューの里」と呼ばれる
    町おこしの施設へ向かう道が舞台に沿って続いている。
    そして無数の白いかざぐるまが時折軽い音と共に一斉に回る・・・。

    もう二度とここへは帰らないつもりでいた故郷へ
    薫(冨樫真)が18年ぶりに帰って来たところから物語は始まる。
    18年前、母の葬儀の日にある事故が元で妹の栞(新妻聖子)は左耳の聴力を失った。
    薫はずっとその責任を感じながら生きている。
    母の死後、妹とは別々の親戚にひきとられて暮らしていたが
    突然その妹が失踪したという連絡を受け、彼女を探しに故郷へ足を踏み入れたのだった。

    頑固でわがままで母親を大事にしなかった父(高橋長英)を、薫はずっと嫌っている。
    死んだ人の骨に細工をほどこして身近に置くという風習も、
    その細工をする職人である父も、薫には受け容れ難いものだ。

    父との再会は、逃げ出したエミュー(ダチョウのようなオーストラリア産の大型の鳥)を
    捕まえようとするバタバタの中で意外とあっさり果たされる。
    この再会がべたべたウジウジしなくて心地よい。
    妹を治すという共通の目的をはさんで、確執のあった親子は次第にほぐれて行く。
    それと反比例するように栞の病状は悪化の一途をたどり、彼女を奇妙な行動へと駆り立てる。

    3人を結びつけるのは「かざぐるま作り」だ。
    不器用な薫が次第に腕を上げて、昔駅員がリズミカルにはさみを鳴らしたように
    小ぶりのトンカチでリズムをとりながら、1000個のかざぐるまを作ろうと励む。
    1000個のかざぐるまが海に向かって一斉に回るとき
    伝説の蜃気楼が現われて、1年中桜の花が舞う世界が見える。
    そうすればどんな願い事も叶うのだと言う。
    壊れて行く妹を、父と薫は守ろうと必死になるが・・・。

    土地の風習とはノスタルジーだけではない、何か人を救済する力を持っている。
    最後に3人のよりどころとなったのは、この切り捨てられようとする風習や伝説だった。

    栞が唄う「骨唄」が美しく哀しい。
    新妻聖子さん、繊細な演技とこの歌で冒頭から惹き込まれる。
    何と透明感あふれる人だろう。

    冨樫真さん、薫の骨太な感じ、父とのやり取りの可笑しさが
    哀しいのにどこか土着の力強さを感じさせて素晴らしい。
    メリハリのある演技が悲劇を予感させる舞台を明るくしている。

    高橋長英さん、こういう父親の愛情表現もあるのかと思わせる。
    ラスト、薫に向かって「俺より先に死ぬな」と言う時の温かさが心に沁みる。
    残された父と娘が絆を取り戻したことが、観ている私たちを少し安心させる。

    これが桟敷童子の舞台装置だそうだが、本当に素晴らしい。
    栞の死の瞬間、バックに現われた無数のかざぐるまが一斉に回る。
    死者を弔うかざぐるまが生きている者を救う瞬間だ。

    不変のキャストで再演を重ねる理由が判る気がする。
    このキャストで、また次を観てみたい。
    舞台も役者もかざぐるまも回る、私の頭の中で今も回り続けている。

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    2012/07/01 12:23

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