水無月の云々 公演情報 中津留章仁Lovers「水無月の云々」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「血筋」ではなく「理由」
    140人のオーディションから選ばれたという14人の
    “若手あるいは無名の実力ある”俳優が中津留氏のもとに集結した作品。
    俳優のレベルの高さと登場人物の彫りの深さ、
    そして何と言っても“犯罪の理由”に迫る緊張感ある脚本の素晴らしさ。
    重低音が正面から腹に響くようなすごい舞台だった。

    ネタバレBOX

    昔ながらの商店街にある、健康食品などを扱う店愛甲家の茶の間が全ての舞台だ。
    店から上がった和室に座卓がひとつ、隣のダイニングルームにはテーブルがある。
    奥に冷蔵庫のあるキッチン、浴室などがあり
    二階へ上がる暗い色のつやつやした階段が数段見える。
    紺色の暖簾、あふれそうな状差し、どこにでもある絵がかかった部屋。

    店主の愛甲健介は63歳、弟がいたが殺されてしまった。
    殺したのは健介の長男大海だった。
    愛甲家には、健介と次男雫のほかに長女水希、
    それに殺された弟の娘千尋が同居している。
    水希の婚約者や元カレ、雫の恋人、近所の電気屋、弁護士なども出入りしている。
    そこへもう一人、刑務所にいる長男大海の嫁留偉が引っ越してくるところから話は始まる。

    冒頭舞台が明るくなると、雫の部屋を兄嫁の瑠偉に明け渡すための引っ越し作業中。
    首のタオルで汗を拭きながら水希の婚約者と雫が段ボールを運んでいる。
    エアコンが壊れている為ハンパでない暑さ。
    その暑さとだるさ、複数人で作業する高揚感を一瞬私自身が体感している感覚にとらわれた。
    そのなめらかな動きと表現力に、のっけの1分ではらわた掴まれた感じ。

    登場人物の設定が特殊で、よくある典型など当てはまらない人物像ばかりだ。
    加害者の弟と、被害者の娘が愛し合うようになったり(いとこ同士)
    結婚したけれど夫への不信感から酒におぼれて行ったり
    そして美しく正義感にあふれ、常に(異様に)前向きな犯罪者の妻・・・。
    登場人物全てがスポットライトを浴びるだけのバックグラウンドと号泣する理由を持っている。

    ちょっと違和感を覚えたのは、何人もがひとつ屋根の下で暮らしているにもかかわらず
    みな無防備で、秘密を隠そうともせずに行動すること。
    大声で罵り合い、抱き合い、男を誘う・・・。
    普通の感覚なら場所を変えるとか何か工夫(?)するだろう。
    演出の都合上、みんな茶の間でやらなくちゃならないのだろうか?
    いとこ同士が反対されながらも堂々と愛を深めて行くところは好感を持てたけど。

    雫役の田島優成さん、冷静さをもったピュアな青年がはまり役。
    世間が認めるはずのない恋愛を育んでいこうとする強さ、
    犯罪者の家族という共通の闇を抱えた者同士の哀しさが伝わってくる。

    長女の婚約者走馬役の坂東工さん、振れの大きい台詞がほとばしるように出てくる人だ。
    冒頭の引っ越し場面で、そのリアルな立ち振る舞いに目が釘付けになった。
    弱さをさらけ出した時には、心根の優しさがにじみ出るようだった。

    雫を愛するいとこ千尋役の勝又絢子さん、ジェットコースター的展開を
    大げさでなく悲劇のヒロインでなく、気持ちの変化を丁寧に見せる。
    次第に強く明るくなっていく様がとてもよかった。

    世間には“犯罪者の血筋”というものを真面目に信じる人がいる。
    ワイドショー的に“あの家は代々○○の家だから”と言ったりする。
    だが人を犯罪へと駆り立てるのは「血筋」ではなく「理由」だ。
    その理由がはっきりわからないから、私たちは“血”のせいにする。
    私たちは知らないうちに、誰かに犯罪の理由を与えている。
    何かの目的を達成するために、無意識のうちに誰かを傷つけている。
    そして時には“犯罪以外に道はない”ように誰かを追い込んだりするのだ。
    明確な意図を持って、「理由」を示唆し、人を犯罪へと駆り立てる悪人もいる。

    中津留さんの脚本は、正義と正義を唱える人の胡散臭さを容赦なく暴く。
    勝ち組の理論に飲み込まれるものか、と立ちはだかる。
    震災後の日本が“善い人とひたむきな努力だらけ”になっていることへの
    不安と気色悪さを、ちょっと離れて眺めるような視点を感じる。
    驚愕のラストに、ちょっとすぐには立ち上がれなかった。
    何てすごい脚本だろう。
    次は一体どこへ連れて行ってくれるのだろう。

    それにしてもタイニイアリス、座席もタイニイであった。






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    2012/06/24 19:03

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