so complex semi-normal 公演情報 拘束ピエロ「so complex semi-normal」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    男子の偏差値
    一軒家プロレスじゃないけど誰かの隠れ家を貸切状態でお芝居を観る感じ。
    荒川ユリエルさん率いる若い劇団が、まさに今だから表現できるテーマ。
    運動部並みの運動量で、10代の痛みにもう一度塩をすりこむようなひりひりした舞台だった。

    ネタバレBOX

    劇場に入ると硬い床の上にいくつかの○が描かれている。
    客席は右と左の二方に分かれている。
    開演10分前くらいから、役者さんがしゃがんだり携帯をいじったりしながら
    舞台に留まっている。
    まだ客入れは続いている。
    半分始まって半分準備中みたいな感じが面白くて眺めていた。

    やがて主催の荒川ユリエルさんが挨拶して深くお辞儀、
    顔を上げた時には右の頬に黒いバッテンのテープが貼られて
    怪我をした顔で芝居が始まった。

    5人の男子が順番に思い出を語り始める──。
    記号のように名前が入れ替わり、お前誰だっけ、誰でもいいや状態が廻る。
    彼らは他人との偏差値の中で自分の存在価値を見いだそうとする。
    自分はあいつより強いはずだ、もてるはずだ、できるはずだ、上なはずだ・・・。
    一番下の者はいじめられ、サンドバックにされ、優越感の確認対象みたいに扱われる。
    時には性的な興味と発散の対象として支配下に置かれたりもする。
    「──な~んて事は無かったけど」のひと言で
    マジ同情していた客はハズされたりもするわけだが。
    本当はあったことなのに、無かった事にしたいのか・・・。

    怪我したのは自分なのに、いつのまにか被害者である自分が仲間外れにされる、
    という仲間意識のすり替えみたいな残酷さや
    いじめられながら「自分がいなければこいつは困るだろう」と考える
    存在意義の歪んだ見いだし方など10代特有の煮詰った学校生活が、
    はじけるような躍動感あふれる動きと交差しながら描かれる。

    実際の役者さんの年齢が20代だから
    思い出を語ってもまだ新しく、それだけに再現場面はリアルだ。
    まだまだ痛みの記憶を引きずっているうちに表現しておくにはベストのタイミング。
    体力的にもハンパない運動量だし。
    役者がその時しかできない表現ってこういうものなのかも、と思う。

    台詞にリズムがあって、5人が声をそろえるところなど
    共有する秘密が浮き彫りになるようで秀逸。
    同時多発的な台詞や会話が飛び交うのもリアリティがあって
    “人の話を聞いてない”社会のイマドキ感を感じる。
    5人の台詞力が均一でこぼれる所がないから成立する演出かもしれない。
    作品全体に何か作者の潔癖な性格が見え隠れするのも面白く感じた。

    制服を思わせる白いシャツに黒またはグレーのパンツという衣装も効果的。
    若い人の現実を眺めながら、実はいい大人もちっとも変っていないのだと愕然とする。
    相変わらず他人や社会の偏差値の中でしか存在できない自分を再確認して鬱々…。

    フライヤーやチケットの色の美しさ、
    台詞の重ね方と、激しいがきれいな動きにこの劇団のセンスを感じる。
    20代でこれを作る人が、これからどんなことにフォーカスし、
    どんな台詞を書くのか、提示する普遍性をぜひ観てみたいと思う。

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    2012/06/17 13:05

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