満足度★★
暴力の気配が感じられず
カジノ船を舞台にした物語だが、いかんせんギャンブルのリアリティに欠けたのが残念。億単位の金額が動く話にしては、「暴力」の描かれ方があまりに浅薄ではないでしょうか。ボディガードも連れず飛び道具も持たずに単身であの中国人実業家が乗り込んでくるというのは、(どんなに彼がカンフーの達人であったとしても)ありえない。ギャンブルは、どんなに額面で稼いでいたとしても、それだけではただの紙切れ。最終的に実際にそのお金もしくはそれに見合うだけの担保を手にして無事に持ち帰れるかどうかにかかっている。権力だってそう。それ相応の見返りなり実効性なりがないと、人を支配下に置くことはできない。そこにはヒリヒリした暴力の気配があるはずなのだ。そうしたものが乏しいまま、命やら町やら愛やらを賭けてますと言われても「ギャンブルごっこ」としか見えなかった。フィクションであっても(フィクションだからこそ)物語世界を支えるための最低限のリアリティは確保する必要があるのでは? 特に今作はロジック(論理)で物語を動かしているわけですから。
演出面では、派手さ・楽しさはあったけれども、テンションがひたすら高く、しかもシーンごとにブツ切れてしまうので、劇全体のグルーヴを見出すことが難しく、野放図なエネルギー過剰といった感じで疲れてしまった。こうしたいかにも小劇場的な狂騒ぶりは、言い方はアレですが、もはや古くさいのではないかとわたしは思ってしまいます。そんなことをしなくても、人と人とが見つめ合っているだけでも演劇になるかもしれない。や、もちろんそれだけでは演劇にならないんだけれども、だとしたら演劇とは何か?といった考察なり感性の錬磨なりを通じて、もっと恐ろしいものを舞台に乗せることができるのではないでしょうか。舞台美術とか、中国人実業家(鬼頭真也)の存在感とか、興味を惹くところもあったけれども、全体に、役者や物語が粗雑に扱われているという印象を受けてしまった。(以下、ネタバレボックスへ続く)