満足度★★★★
死者と生者が出会う場所
「いま・ここ」にはいない人々の対話、ドラマを「いま・ここ」に呼び出す演劇は、そもそも一種の降霊会のようなものなのだと思います。それは、過去と現在が、虚構と現実が、同列に扱われ、語られる場でもあります。ですから命を扱ったこの芝居が、打ち捨てられたマンション建設現場で行われる「降霊会」の形をとっていることは、とても得心のいくことでもありました。
降霊会の会場は天上と地底とをつなぐ鉄製のエレベーター。参加者たちは、子殺しの母・クマコと地底人・ポールに導かれ、過去の凶悪犯罪の被害者、加害者、その死霊や生霊との対話を重ねます。愛のあり方や暴力について……時には詭弁めいた意見も交えつつ、しつこいほどに続くディスカッション。動きも少なく、どうしてもやりとりが観念的に思え、うまく飲み込めない部分も少なくはありませんでした。けれど、振り返ってみれば、あのしつこさには、通り一遍の善悪を超えた、人間の業に触れようという強い意志があった気もします。
終幕、クマコに殺された娘(の霊)は、その母を恨みつつ抱きしめます。(むろん、それもこの会に呼び出された幻にすぎないのかもしれませんが……)やはり、愛も憎しみも暴力も、一人の人間からは生まれないのですよね。他者の存在はいつも、喜びであり、哀しみでもある。