鈴木の行方 公演情報 タテヨコ企画「鈴木の行方」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    記憶の四つ角で惑う男
    忘れていたことさえ忘れてしまう年齢が四十なのかもしれない。
    子どもが大きくなるのに反比例するように小さくなっていく自分。
    そんな四十男の存在の頼りなさが出ていた反面、
    彼の記憶と事実とのギャップが、登場人物の言動に反映されないもどかしさが残った。

    ネタバレBOX

    売れない物書きの桂木が久しぶりに故郷の友人鈴木を訪ねてみると、
    肝心の鈴木浩道はどこへ行ったのか判らない上、
    同級生たちが何故かみんな“鈴木”だと名乗る。
    覚えていること、覚えていないこと、そして間違って覚えていたこと…。
    それぞれの記憶の曖昧さと思いこみ、どうしてみんな鈴木なのか、
    この辺りの桂木の混乱ぶりが可笑しい。

    序盤の謎が興味深いし、何より桂木が連れている犬役の向原徹さんが秀逸。
    前足の感じ、小さい吠え方などホントにリアルで一気に集中させる。
    この犬が桂木の手を離れると過去の記憶がフラッシュバックのように再現される。
    さっきまで「おー、久しぶり!」と言い合っていた男たちが
    ランドセルを背負って出てきたり、学ランに太いズボンの学生服になったりして
    判り易さと違和感がないまぜになって妙におかしい。
    帽子をとったら学生頭薄いし(笑)

    桂木の記憶と過去の出来事が呼応して、ひとつずつ真実が明かされ、
    その結果鈴木の行方に近づいて行く…という展開を期待していただけに
    最後で外された感じが否めないのはちょっと残念な感じ。
    犬は犬のまま喋らずにいた方が魅力的だった気がする。
    エピソードが多くて“鈴木浩道の行方を探す”という本筋が霞んでしまった。
    全ての道は鈴木に通ず、という展開の方が集中できたかもしれないと思う。
    麻雀のエピソードには笑ったけど。

    友人のひとり真也ががんであることや、大地の妹が駆け落ちした事などが
    現実の彼らの言動に反映されていないことも魅力を削いだかもしれない。
    それによって優しさや哀しみ、相手を大切にする姿が伏線として見られたら
    もっと登場人物に感情移入出来るのではないか。

    客席を二手に分けた舞台の使い方がとても面白かったが、
    通路の確保などをもう少し優先した方が良かったと思う。
    桂木が妹をラケットで殴るエピソードがなぜ必要なのか、私にはよくわからなかった。
    鈴木浩道役の奥田洋平さん、待っていた男のクールな感じが素敵。

    出演者の熱演と初期設定はとても良かったと思う。
    誰にでも記憶違いや、記憶の欠落はある。
    それはまるで“鈴木”という名字のように、そこらじゅうに埋もれている。
    ふと思い出してその記憶を掘り返すのが、惑い続ける四十男なのかもしれない。
    人生の折り返し地点に記憶の四つ角で立ち止まる
    ちょっと切ない男たちの話だった。

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    2012/06/08 03:06

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