くろねこちゃんとベージュねこちゃん【ご来場ありがとうございました!!】 公演情報 DULL-COLORED POP「くろねこちゃんとベージュねこちゃん【ご来場ありがとうございました!!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    演劇の特性を活かすアグレッシブな演出
     開演前の数十分は2人の女優さんが猫耳や尻尾をつけた可愛らしい衣裳でお茶をふるまい、舞台上でお客様との触れ合いタイムが繰り広げられました。最前列に座っていたのですが、私はちょっと入って行きづらかったです。開演時刻になると会場案内をしていた劇団員の方々も舞台上に出てきて、日常から地続きにお芝居が始まる演出になっていました。会場の空気を和ませ、観客が舞台を身近に感じてきたところで、さらにグっと惹きつける巧みなオープニングだったと思います。

     父、母、息子、娘の4人家族のお話でした。父が突然事故で亡くなり、一人になった母は家政夫に家事をまかせ、2匹の猫と会話をしています。母役を男性が演じるので、さっきまでお茶を淹れていた女優さんが猫役を演じても、無理なくファンタジーとして受け入れることができました。
     葬儀のために帰ってきた息子と娘には猫の姿は見えません。幻想の猫と堂々と話をして、家政夫に対する態度がコロコロと豹変する母は精神を病んでいるようにも見えるのですが、猫たちが元気に軽快なムードを作るので過度な深刻さは生まれません。娯楽性を重視する演出が成功していたと思います。
     亡くなった父も登場する回想シーンでは、猫たちが当時の母を演じ、その回想を母が外から見守る構造でした。ひねりが入った劇中劇で虚構性が増し、家庭内の確執を暴く痛々しい場面でも、冷静に観察できたのが良かったです。

     以上のような工夫をこらした演出は刺激的でしたが、谷さんの作品をほぼ10年観てきた者としては、戯曲に物足りなさを感じました。いわばステレオタイプな家族の物語で、私の想像力の及ばない境地へと連れて行ってくれなかったのが残念です。役者さんの演技がおぼつかなくて、私にとっては正視に堪えない場面もありました。私が谷さんの実績と比較してしまうせいなのでしょうが、1人を除き出演者を劇団員だけにしたことで、演技力の未熟さが表面化したようにも思います。

     カラフルな照明で空間を派手に、賑やかにしていたのが良かったです。ただ、ある部分だけを照らして空間を分けるような効果も、もっとあっても良かったのではないかと思いました。日本語の歌詞の曲が流れていましたが、邪魔にならずポップなムードになっていたのが個性的で楽しめました。でも音楽が特に印象に残ったこと自体は、作品全体として良かったのかどうか悩むところです。

    ネタバレBOX

     多地域ツアー用と思われる身軽そうな舞台美術でしたが、貧相すぎないのが良かったです。折り畳み式ダイニングセットの周囲に、雑誌の紙を撒き散らして演技スペースをつくる演出もいいですね。開演前にタイトルの『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』の文字が天井から吊り下がっていたのは、長塚圭史さん演出のミュージカル『十一ぴきのネコ』へのオマージュかしら。可愛らしかったです。

     父は税理士でしたが本当は税理士の仕事が嫌いでした。引退したいと言い出した父を母は拒絶。“税理士の妻”という地位に、母はまだまだしがみついていたかったのです。母は息子が演劇を続けることに反対で、一方的に「税理士になれ、父の事務所を継げ」とうるさく言い続けていました。対して受験生の娘には「女なんだから大学に受からなくてもいい。自分のような専業主婦の人生でも幸せなのだ」と、勉強の邪魔をします。言い争いの末には「(あなたは)自分のことばっかり考えて!(ひどい)」と、自分を棚に上げて怒ってしまう、わがままで高圧的な母親でした。見てて本当にイライラしますね(笑)。

     遺言書が見つかり、父は伴侶であったはずの母に遺産を残さないほど恨みを持っていたことがわかります。きれいごとで済ませない展開がいいですね。現実はこんなものだと思いますし、家族の話にはこれぐらいの毒があって欲しいです。
     でも、この4人家族が“普通の生活”を送ることができていたのは、家事全般を当然のごとく引き受けてきた母のおかげです。大学を中退し結婚後も演劇を続けている息子は、父の遺言書をねつ造して、まるで歌舞伎の「勧進帳」のように、母が悲しまない内容に新創作して読みあげました。真実がいつも正しいわけではないと判断し、嘘(フィクション)の力で人間を救う名場面でした。息子が芸術を志す者として立派な態度を示したことを嬉しく思いました。

     父を演じた塚越健一さんの演技が良かったです。長年ギュっと本音を押し込めてきた寡黙なたたずまいに説得力がありました。

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    2012/05/23 22:23

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