鬼の生活 公演情報 ブルーエゴナク「鬼の生活」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    次回作も期待してます。
    「鬼の生活」の情報を最初に知ったとき
    まずタイトルの付け方がうまいなぁ、と感じた。
    市井の人の物凄く忙しい生活を描いたものなのか、
    バイオレンスに生きる裏社会の世界を描いたものなのか・・・
    いろんな想像を巡らすことができるものだった。
    実際は、意外にもそのまんまの意味だった。

    平日夜の公演にも関わらず50席程度の会場は満席(ほとんどの回で満員だったようだが)。
    アフタートークを主に平日公演で設定した効果もあるのだろうか。
    前回の公演では座席の足下の狭さにやや閉口したが今回はゆったり座れる広さ。
    なので136分(この回は実際には140分)+アフタートークの計180分もそれほどまで長く感じられず。
    それはもちろん公演全体のクオリティの高さによるものだったろう。

    旗揚げして間もない劇団ながら、地元劇団の実績のある俳優や熊本の劇団からの客演、多彩な顔ぶれのアフタートークゲスト。
    周囲の協力もあってのことだと思うが、
    この団が短い期間に放出してきたエネルギーも大きかったのだろう。
    次回作は早くも7月初旬に上演される。
    新しい劇団としては異例のハイペースだと思われるが
    今回をさらに上回るおもしろい作品を観せていただけるはず、と期待している。

    ネタバレBOX

    以下各シーンで印象に残った部分
    【EP1 異形の行列】
    【Secene1送信屋】
    最初、音で聞いたときは「痩身屋」かと思った。
    送信屋がいきなり「手の甲ーーー!」で始まる入りも上手いなぁ、と感じた。
    ここも「はい、OK、問題なし」の部分くらいから始めて、もっと短くしてもいんじゃないの?とも思うがやはり必要だったのだろう。

    【Secene2戻と円芽とメイドの久根桐】
    泊篤志氏の作品に見られるありそうでなさそうな名前。
    泊氏へのオマージュなのか?
    世間ずれしたお嬢様、円芽役の折元さんが光る。キャスティングの妙。
    命綱命の件が実におもしろかった。

    【Secene3母と姉】
    下着姿の女優2人。
    下着である必要はあるのか?
    体当たりでやってますよ的なことのアピールか?
    それとも観客へのサービスか?
    はたまた単なる穴迫氏の趣味か?
    なんて考えたが後のシーンを見て必然性を感じる。
    穴迫氏はできることなら全裸で演じさせたかったのではないだろうか?

    【Secene4踊る医者】
    このシーンはなんかインド映画みたいだなぁ、と思った。
    医者が踊るという必然性はないのだが、踊る。
    そしてきちんと踊れる人をキャスティングして、
    しっかりしたダンスを見せてくれる。
    そんな中、怒った鬼が医者に3発のビンタを放ち、下手の壁際まで追い詰める。上手で見ていたので、鬼の表情が見られなかたのは残念。
    医者役の橘高さん、役者初挑戦とは思えない堂々の演技ぶり。

    【Secene5某ファストフード店にて】
    このまま食べて終わりじゃないだろうな。
    いや、それもありそうだな?
    でも、なんかあるだろう。
    ああ、やっぱりそのまま終わってしまった・・・。
    作者の思うツボ。

    【Secene6裏カジノ】
    麻雀漫画「アカギ」での点数分の血液を抜かれる話を思い出す。
    漫画は息詰まるような展開だが
    同じくグロな話ながらこちらは極めてポップな感じで話が進む。
    片方の目を失っている大迫の横にディーラーが立ち
    「見えないですか?」と言うと「あ、今、死角にいます?ふふ、もうやめてくださいよー!」と笑う。
    実社会でこんなことをやると人間性を疑われる。
    が、そうか?
    「かわいそう」だと思ってるのはいわゆる健常者の側で
    当の障害者の中にはさして気にせず、こんなふうに笑い飛ばしている方もいるだろう。
    前回の挑戦で片方の目を失って、 残ったもう1つの目を賭けるのに
    その見返りは「目につける、ブイーンってやつ」
    賭けるものはとても大事なものなのに、それに対する配当が軽すぎるのがおかしい。
    鬼は敗者となり角を取ってもらいたいのに、
    勝ってしまい、欲しくもないパラボラアンテナを手に入れる。
    世の中とはそういうものか。
    「足りないのうた」もよかった。

    【Secene7鬼と円芽】
    印象にのこるセリフ2つ。
    「傘差さなくても人生は楽しいですか」
    「分かりません、傘差したことないから、基準がないから」
    通りでジョギングしてる人は普通だが、ダンスをしている人は奇異な目で見られる。
    「お金あげます。みじめだから、可哀想でいたたまれないから」
    同情とか施しとかはけっきょく欺瞞か?

    【Secene8福良浜の言い分】
    福良浜の置かれる状況と思いは切実。しかし周りにはどうでもいいこと。

    【Secene9手足に関わらずおよそ万物の生成】
    円芽にもらった大金を持ち帰る鬼。
    最初に自分の角を治すのか、二人の手足を治すのかという相談を持ちかける。
    姉は私にと言い、母は老いぼれで治っても使い道はないと言う。
    そして体が治ったら、一緒に散歩にでも行こうね、と言う。
    ここでも与えるものに対して見返りは小さい。
    自己中心的な考え方が蔓延する一方、
    「大切なもの、それは絆」などと公言する社会に対する、
    穴迫氏の冷めた眼差しを感じる。
    四肢を治すよりもコラーゲン注射。
    この二人の鬼を馬鹿だと笑うことはできない。
    世の中はこれ以上に実よりも虚に溢れている。
    このシーンも扱ってい る内容はシリアスだが「弱虫さん」の歌が効果的に緊張緩和の役目。
    「メンインブラック?」のあとの沖田さんのドヤ顔は笑えた。

    第2部は福良浜の作詞を6人のキャストたちが手伝うところから。
    やはり切実な気持ちの福良浜とは裏腹に
    手伝うという行為自体は親切だけれども
    ひとりの弱者を笑い者にして自分たちが楽しんでいる。
    「素人!所詮素人!」のセリフが印象に残る。

    続いて歌の指導をする6人。うまく歌えない福良浜。
    歌えないのを6人のせいにし、ちゃんと教えてくださいよと逆ギレし
    隣の部屋がうるさいからと言い訳する。
    へたくそと言われ笑われて
    「お前らがダメだからだよ!」と叫べば
    「お前らって?」「俺らはお前なのに」と返ってくる。
    国が、格差社会が、セーフティーネットが云々と
    とやかく言う者に対するカウンター。

    福良浜が隣に殴り込みに行こうとするところに
    適当なことばでそれを煽る6人。
    せっかく立ち上がれたのに殺されてしまう鬼の親子
    やはり世の中とはそういうもの。

    【Secene10戻の決意】
    殺してくれと叫ぶ戻。それを目に入っていないかのように手をつなぎながらヒョイと通り過ぎる鬼と円芽。
    当日のパンフレットの代表挨拶の末尾にあった
    「いやはや人の言うことなんて、自他問わず真剣に聞くもんじゃねーな」との言葉をもっとも強く感じたシーン。
    福良浜が鬼と円芽を刺すシーンは
    人を殺して一人前になろうとする狂気に憑りつかれた男が
    日常の延長線上で殺人を行なっているかのような若者的台詞回しが印象的だった。
    4人の殺人を行なって事を成したつもりが実はそうでなかった滑稽さと哀しみ。
    生命が果てようかというときに隠し続けた自己をようやく曝け出すことが 出来た矛盾と儚さ。
    前のシーンでもそうだったが、手に入れたものはそこから瞬く間にこぼれ落ちてしまう。
    凄惨なシーンとは対照的なライトなBGM(smart drag Mr.Christer)。
    しばらくはこの曲を聞くと、このシーンを思い出すようになりそう。

    【EP2ムネちゃんと木村君、あと貫君】
    このエピソードは要ったのか?要ったんだろうなぁ。
    おもしろかったからいいや。
    頭の弱い子を演じさせたら沖田さんは輝きますね(笑)。
    あの狭い空間でのあの体当たりの演技はよく怪我なくやってこれたと思うと同時に
    あと1公演、無事に乗り切って欲しいと切実に感じました。
    少年時代のノスタルジーと地元への愛を感じた。

    【EP3鬼の生活】
    タイトル名がついたエピソードながら、全編のまとめというわけではなく
    エピソードZeroな感じ。
    EP2が特典映像ならこちらは同時に撮った次回作の予告編みたいだった。
    おそらくEP1のラストシーン+αで完結しててもよかったのではとも思われるが、穴迫氏の過剰な(笑)サービス精神の現れか?
    (さらに深い意味があるのかも知れませんが)

    【エンディング】
    エンディングソング「外周の円」(?)
    あの長時間のお芝居の後に、嫌がらせとしか思えない、まさかの3番まである、こちらも大作。
    次の日の仕事中、迂闊にも何度か口ずさんでしまった。
    「母はおろか誰も来ない」という歌詞が妙に心にひっかかる。
    上演台本には歌詞が書かれてなかったので
    機会があれば読んでみたい。

    【その他雑感】

    アンケートに公演の印象を一文で書いてくださいとあったので
    その時は別のことを書いたが
    今はこうかな?
    「ポップでシリアスな、どす黒いエンターテインメント」

    二番目の庭「Futurama」に穴迫氏が出演された際、
    次回作について語られたときはビッグマウスやなぁ、と思ったが
    強ち偽りではなかった、と言わざるを得んでしょう。

    あのクオリティで1500円は安い。
    あと台本も600円は安い。1000円でもいい。
    台本の巻末に上演を希望される際は、ご連絡くださいとあるのを見て
    他の演出家が同じ(または違う)キャストでやるとどうなるのか
    とても興味をそそられた。誰かやってください。

    余裕があれば劇中歌CDも作ってもらいたいです。
    今回あればたぶん買ってました。



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    2012/04/18 14:10

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