俺以上の無駄はない 公演情報 MCR「俺以上の無駄はない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    クズ野郎、好き
    このタイトルで、自称「クズ野郎」の芝居とくればこれは観たい。
    そう思った時点でもうやられてる・・・。
    台詞が時代の空気を感じさせるから、軽い笑いでいなすのかと思いきや
    役者陣の充実ぶりと、実は鋭い痛みを伴う展開に
    最後はなんだか泣けてしまった。

    ネタバレBOX

    長椅子のほかに2、3個の椅子が置かれた部屋。
    色とりどりの立体的な窓枠が壁一面に取り付けられている。
    この部屋が、主人公櫻井と姉の住む部屋になったり
    倒れた姉のかかりつけの病院になったり、
    「不幸の泉に顔をつける会」というよくわからない会の集会場所になったりする。
    短い暗転と小さな照明の変化でテンポ良く場面が切り替わる。

    姉弟のバトルがマジで激しいので、この二人が抱える問題の深刻さが浮き彫りになる。
    まるで共依存のように、互いを必要とし思いやり、そして面倒くさがっている。
    櫻井智也さんの巻き舌罵倒は定番(?)として
    巨漢の姉の石澤美和さんもすごい存在感でスキのないキレっぷり。
    これがのちに脳腫瘍のために現われたもう一人の“人格の良い美和”に入れ替わるとき
    絶大な効果を生んで素晴らしく可笑しいのだ。

    力業のような展開を見事なまでにリアルに見せるのは役者陣のなりきりぶりの凄さだ。
    2つの人格が激しく入れ替わる姉や、大好きな親友の為に自分を投げ出す男、
    あからさまに姉に下りる金目当てにやってくるへらへらした元夫、
    みんな振れ幅の大きい役なのに、必然的にそうせざるを得ない人間として
    説得力のある存在に見せる。
    怒号飛び交う中でただひとり、怒鳴りもせず笑いながら当然のように
    金目当てでやって来る元夫を演じた小西耕一さん、
    クズ野郎とはこの男のことだろうという役を
    「こうなって当然」と思わせるほど憎たらしく演じて秀逸。

    「不幸の泉に顔をつける会」や、姉の人格が割れるアイデアに
    櫻井智也の素晴らしさを感じる。
    人の心臓をつかみ出して見せるような、深層心理を容赦なく晒すところ。
    どうして彼はいつも疲れているのかと聞かれた“良い人格の姉”は答える。
    「智也は人よりちゃんとしなくちゃ、と思い過ぎるから疲れるのよ」
    こういう台詞がいいんだよなあ。
    私たちが理由もなく言いようのない疲れを感じることをちゃんと分析している。

    巻き舌で罵倒しながら、疲れた櫻井はいつも「どうでもいいよ」とつぶやいていた。
    しかし最後に決断を下す時には「どうでもいいことなんて無いんだよ!」と叫んだ。
    そう、どうでもいいことなんてひとつもない。
    全てのものは、決断し選択されることを待っている。
    私たちは疲れたと言わず、嬉々として選択しよう。
    今日のように熱い舞台を選択すれば、終わって暗転した途端
    「ちきしょう、めちゃくちゃ面白いじゃないか!」と泣けるのだから。

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    2012/04/15 02:17

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