ハーフムーン 公演情報 劇団テアトル・エコー「ハーフムーン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    唐沢ワールドに身をゆだねて大満足
    『アラカン!』で、ニュータイプのバックステージものを見せてくれた唐沢伊万里さんと、テアトル・エコーのタッグ。
    今回は、いかにもいそうな中年夫婦が、どこかにありそうな民宿にやってくる話。作家さんの振り幅の大きさをかんじさせますねー。

    はじまりのところでわたしたちは、民宿の次男坊のもくろみをきかされます。やってくる客に取材して、それをネタにシナリオを書いてデビューしよう! なーんていう。でも、やってきた夫婦のダンナのほうは、きいてもごくふつうのことしか言いません。がっくりくる次男坊…。

    おいおい、唐沢さんのドラマだぜ、これからきみにびっくりするようなことが起きるんだぜ、と客席から心のなかで、わたしは次男坊に語りかけました。

    ネタバレBOX

    その期待にたがわず、いろんなことが起きます。

    まずこの夫婦は、奥さんの発案で、「よりよい夫婦になるための練習」をしに来てるということがわかります。なんだそりゃ? と思うよね。でも、奥さんは自分なりに夫婦のあいだがらに悩んでのこと…。では、ダンナはなんでついてくるか? っていうと、その理由が少しずつわかってきます。

    …と、「夫婦のあり方」を静かに考えさせる展開と見せかけて、次から次へと問題がこじれていき、二度、三度と重なる「まさか!」な大展開に、もう身をゆだねるしかありません。
    この感覚が、気持ちいいんだよなー。『アラカン!』でもそうでした。途中から、「どうなるのか予測もつかない、でも芝居の流れについていけば、ぜったい大丈夫!」っていう心理になる。

    さて、ネタバレBOXとはいえ、ぜんぶのネタをとても書ききれないぐらい豊かな内容なので、わたしが好きな点を並べてみます。

    ・民宿の兄弟と幼馴染の女の子が、最後まで、奥さんのウソを信じて、しかもさらに勝手に誤解を深めてしまうこと。
    ウソっていうのは、奥さんは中盤、感情がたかぶって、自分たちは不倫カップルだと言ってしまうんですよね。その感情のたかぶりの奥には、まさに次男坊ががっかりした「平凡ななれそめとその後のありふれた結婚生活」があることが、観客にはわかってくるんですが、それって、若い3人にはわからないのが自然!

    ・中年夫婦のけなげさ。
    ほんとは何を伝えあわなければいけなかったのか、気づいたふたりは、あるヘンテコな手段でそれを伝えはじめます。
    これがもう、笑わずにはいられないんですが、一生懸命であるゆえなんで、けなげで、かわいくて、笑いながら泣いてしまいます。
    泣けるシーンで笑わせる、これこそ喜劇ですね。
    ちなみにかれらが伝え合うのは、かれらの個別の事情であり、ほかのだれとも違う、自分だけの気持ちです。よくある、「愛してると言葉に出すこと」「感謝の言葉」なんかじゃないんですねー、これが。

    ・対照的に見えた男ふたりが心を通わせるところ。
    主人公夫婦とはいちいち対照的な、初老男性と若い女性の、年の差カップルが出てくるんですが、その初老男性のほうが、ダンナに前述の「ヘンテコな手段」をさずけてくれます。
    そのときに語る言葉、すごくいいですよ。「これならみのり(若い彼女のほう)をあずけても大丈夫だな」と、親みたいな気分になります。
    そして、それまでは対照的なふた組に見えたかれらだけど、たしかさを求めあう気持ちは同じなんだなあ、と気がつきます。

    ・女傑対決。
    民宿の若者3人が主人公夫婦を不倫カップルだと信じ込んでいるなか、なんと「ここに夫が女と来てるはず!」と言い張る女性がとびこんできます。
    観客は、今までのストーリーからいって、「夫を出して!」と言ってくる人物はありえないことを知っています。では、この人はだれ? と思いながら見るんですが、種明かしされるまで観客に何らかの仮説を抱かせたらおしまい。
    脚本はそこは丹念につくられているのですが、役者さんにも隙のない演技が求められます。
    戯画的な演技で、それをこなした女優さん(森澤早苗さん)には脱帽!
    最近気がついたのですが、お芝居には観客が自分を投影できる役も必要だけど、かけらも投影できないどころか、少しでも話がつうじる相手に見えたら、芝居全体がこわれる、そういう難しい役もあるんですねえ。
    『ザ・ワールド・イズ・スターマイン』の十日町くんとか、この女性とか。

    そして、正体をあらわした女性は、宿のおかみさん(日本を代表する声優で舞台女優の太田淑子さん!)と対決するんですが、かわいいかわいいおばちゃんに扮した太田さん、これがまたすばらしい!
    不倫カップル専用の宿になってくれたら巨額の契約金を払うと言われ、「どんな人が来るかわからないから楽しいのに、そんなのつまらないからいやだ」って言うんですよ。
    メルヘンなこと言ってるようでいて、てこでも動かないよ、という断り方ですよね。すっごく「商売人」らしい! こわい!
    なのに、目の前にいる女優さんは少しもこわくなくてかわいいまま! あー、演技ってすごいなあ、と思います。

    あと、空間の使い方がなんとも面白かったです。
    いっしょに見た人がそれをうまく言い表してくれたので、ここにも書いてもらうようお願いしました。
    きっと書いてくれると思うので、期待しててください!

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    2012/04/07 20:42

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