ガラスの動物園 公演情報 シス・カンパニー「ガラスの動物園」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    そのろうそくを吹き消してくれ
    テネシー・ウィリアムズの出世作であり、そして最も愛されていると
    いっても過言ではない代表作『ガラスの動物園』。

    それを、数々の演出仕事でも高い評価を得てきた長塚氏が演出を
    手がけると聞いては、思わず興奮してしまいます。

    作者本人が最も思い入れを持っていたと思しき作品を、美しくも
    意外とシンプルに魅せてくれました。原作では、シリアス一辺倒の
    雰囲気を持っていた作品が、時にはユーモラスな顔も見せるなど
    別の魅力も十分に私達に教えてくれたと思います。

    ネタバレBOX

    テネシー・ウィリアムズの作品って、どれも生々しいんですよね。
    台詞も、人物造形も、またそうした人物達がどうなっていくのかも。
    全部、腑に落ち過ぎる感じです。

    『ガラスの動物園』にしても、あぁ、こういう人たちいるよなぁ、と何度
    心の中で感じた事か。

    母親の、口うるさいけど、家族を心配している様子とか、

    娘の、人が怖いあまりに、全身が硬直してしまって、巧く
    話せない様子とか、

    息子の、多分に皮肉っぽいけど、自分の人生は自分で切り拓いてやる!
    という、野心的で熱い部分とか、

    会社の同僚の、いかにもビジネスパーソンな、自己啓発臭が全身から
    匂うけど、そのくせ、自分の枠にとらわれかかっているんじゃないか、と
    いうさまとか、

    自分の周囲、そして自分の中にもひょいと顔を見せてくる要素なので
    感情移入がとんでもない程度で襲ってきました。

    個人的に一番心を動かされたのは、母親が「こんなに頑張って
    きたのに…」と叫んで泣きじゃくるところですね。「貧困」の残酷な
    ところは過剰でも過小でも無いところですよ。同じ程度で、じわじわ
    襲いくるから、どんどん心の養分がやせていくんです。

    そんな中、この一家は危うい均衡の上、十分に健気に、お互いを
    守ってきたと感じる。それが、客席の私達にも十分伝わってくるから
    それが時に悲しい、んです。耐えられないものを感じるんです。

    母親役を演じた白石さんの存在感が一番高かったです。一家を
    仕切ってきた一般庶民の図太さと、あ、母親はどこの国でも母親
    だな、と感じさせられてしまう、子供たちを色んな形で心配してしまう
    性質。自分の母親をふと思い出したりもしました。

    演出は…美しいの一言につきますね。特に、舞台の背後に大きく
    設けられた窓を使っての、光の演出には、目が覚める思いがしました。

    逆に、ダンサーを使った要素は、舞台上の道具等の移動をスムーズに
    した位にしか印象に残る部分が無かったかも。確か『タンゴ』の時も、
    同じような演出がされていた気がするけど(登場人物以外が、舞台の
    上に出てくる)、イマイチ成功してないような気が。健闘はしているのですが。

    最後、暗闇の中で、トムが沈痛な声で、

    「もうろうそくを吹き消してくれ…姉さん」
    「そして…さようなら」

    と、呟く中、静かにろうそくが吹き消されていき、完全な、静かな闇に
    舞台が包まれていく瞬間は、切なく沈痛で、物悲しくもエモーショナルな
    場面で、トムが作者テネシー自身の悔恨と諦念とに最もリンクした、と
    強く感じました。痛みに溢れているけど、一枚の名画を目にしたような
    想いを抱き、それは今この文章を書いていても、時々、胸に飛来して
    私を涙ぐませたりもするのです。

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    2012/04/07 07:10

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