満足度★★★
3声のカノン
「囚人のジレンマ」の形式を用いた、疑心暗鬼になっていく会話を通して、社会的な正義と個人的な正義の葛藤を描き、正義の成立し難さを考えさせられる作品でした。
3重の入れ子状になったフレームの中に散乱している椅子や机が冒頭のマイム的なパフォーマンスが行われる中で整頓されて本編が始まり、メルトダウンが起こる危険性のある現場から逃げた原発の保安検査官、風評被害で売れない地元の米の代わりに他の地方の米ばかりを売る米販売者、避難区域に指定されて人がいなくなった地域で空き巣を行った大学生の3人の被疑者がそれぞれの取調官に尋問されるストーリーが入れ替わりながら展開し、別室で共犯の容疑者が同じく取り調べを受けていることを知らされ、心理的な駆け引きが繰り広げられる話で、3つのストーリーが相似的な展開をしていて、音楽の3声のカノンを演劇化したかのような構造が面白かったです。
後半、それぞれの共犯の被疑者が現れるところから流れに勢いが出てきて、正義というテーマが強く打ち出されていました。
敢えて大団円を迎えない終わり方が、簡単には答えの出ないテーマに合っていて良かったです。
明瞭な構成が魅力的でしたが、物語的には絡まない3つの話が演出上は絡む仕掛けや、エピソードの切り替わりの見せ方にもっと工夫があっても良いと思いました。
演技が少々オーバーに感じられたのが残念でした。