ドーナツの穴 公演情報 アトリエ・センターフォワード「ドーナツの穴」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    今、観るべき舞台かと・・・
    お芝居としてのクオリティの高さに惹かれつつ
    シーンの重なりから浮かび上がってくる
    時代の刹那を生きる感覚と、
    その顛末に強く心を捉えられました。

    あがきながらも
    歩まざるを得ないその道を歩み、
    さらに歩みを進めていく主人公たちの姿に
    目を奪われる。

    そこから浮かんでくる時代の横顔や
    揺れながらも踏み出す主人公たちの選択に
    生きることへの実直さを感じて。

    今、観るべき舞台だと感じました。

    ネタバレBOX

    日本とは異なった時間が流れる
    とある国で活動する女医の今と
    彼女の祖母の物語、
    手紙から二つの時代が撚り合わされて
    舞台上に紡がれていきます。
    停電が頻発する、
    決して経済的に豊かとはいえない国での
    緩やかな時間のなかでの女医の苛立ち。
    彼女は次第に祖母からの手紙の世界に取り込まれていく。

    テーブルの使い方がぞくっとくるほどに秀逸。
    中央のテーブルが崩されると
    そこは瓦礫となって廃墟の風景を導き出す。
    戦後、子供を授かり娼婦となった若かりし頃の祖母、
    その同輩の娼婦とひもたち・・・。、
    ひりひりした日々の緊張感と閉塞感の中で
    時代は少しずつ歩み始めて・・・。
    そのなかで、彼女の広島での体験、
    麻薬に依存していく同輩の姿、
    さらには時代を掠め取っていく小役人などが
    復興の歩みの狭間の空の世界を織りなしていきます。
    しかも、そのテーブルは
    場のミザンスを作るにとどまらず
    女医の心情の具象としてもしたたかな力があって。
    崩されてもなんとか積み戻されて
    再びテーブルの態に戻されて。
    そのテーブルのまわりで、
    さらに女医の世界が描かれていく。
    文化の違い、彼女の立ち位置
    現地人のクレジットカードのこと。
    さらには、震災や原発を思う気持ちまでも・・・。

    したたかな台本だと思うのです。
    役人を巻き込んで何とか生きていこうとする終戦後の男女たち、
    その役人の立ち位置や心情・
    登場人物達があがき、歩み出し、生きていく姿、
    さらにそこから女医の歩むベクトルが生まれていくこと・・・。
    よしんばそれが、どこか数奇であったり意外な結末であっても
    まやかしを感じることのない必然があって。

    そして、その中で、言葉では表現しようのない、
    「ドーナツの穴」の姿がしなやかに浮かび上がる。

    広島でピカどんにあった娼婦が歩み繋ぎ、
    故郷の原発事故のことに想いを馳せる女医が
    そのことを知り新たに歩み始める先を選択する姿に
    閉塞や行き場のなさに身を置いた時代を生きることへの
    愚直で切っ先をもった有り様を感じる。
    舞台が
    時代が変革していくダイナミズムや、
    明確な理想やビジョンや
    そこへ向かう意志の輝きに染められるわけではない。
    でも、役者たちが密度をもって紡ぎ出す
    登場人物の感覚や想いには
    にび色の貫きを持ったリアリティがあって。

    この舞台、
    時代を超えた普遍性を持ってはいるのですが・・・、
    でも、震災や原発の衝撃から
    この国がよろめきながらも再び歩みを進めようとする、
    まさに今こそ観るべき
    秀逸な公演だと思うのです

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    2012/01/13 07:31

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