ハムレット 公演情報 劇団東京乾電池「ハムレット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    これが「東京乾電池」だ!
    とても「危険」な演出を、今回も敢えてしたのではないだろうか。

    35周年公演の1本。
    25周年は『夏の夜の夢』だったから35周年は『ハムレット』。
    45周年もやっぱりシェイクスピアになるのだろうか。

    ネタバレBOX

    東京乾電池の古いメンバー3人(柄本・綾田・ベンガル)の印象から、『ハムレット』を面白可笑しく見せてくれるのではないか、と思った観客も多いのではないだろうか。
    また、『ハムレット』を正調で演じるのではないか、と考えて会場に足を運んだ方も、(少数だとは思うが・笑)たぶんいるだろう。

    結果としては、どちらの観客にとっても、やや肩すかしだった感は否めないのではないか。

    その感覚は、25周年のときに、同じスズナリで上演された『夏の夜の夢』でも感じたものでもあった。
    ただし、『夏の夜の夢』は、劇団員総出演で、全員が登場するシーンがあり、舞台の上が大変なことになったり、あるいは柄本さんの出番が多く、圧倒的な存在感を見せつけてくれたりしたので、結果としては「とても面白かった」のだが。

    今回、多くの観客が感じたのは、「なんでこんな人が舞台に立っているの?」「若手と古株の力の差がありすぎでは?」ではないだろうか。
    同じことを、25周年の『夏の夜の夢』で最初は感じた。

    しかし、よく観ていると、「あまりうまくない役者」(あえてそう言う)の演出は、「とにかく早口」にしていることに気がつく。
    とにかく台詞を早く言わせて、相手のリアクションなどはとらせていない。よく見れば、(特に冒頭の3人)相手の台詞を受けているはずの様子はほとんどなく、棒立ち状態に近い。

    これはどういうことなのか? 「芝居」とか「演劇」の決まりとしては、あり得ない行為ではないのだろうか。しかし、演出は、それを「敢えて」やらせている。

    なぜ東京乾電池がそれをやるのだろうか、と考えてみると、例えば、月末劇場で上演されている演目や、座付きの作家(&演出)である、加藤一浩さんの戯曲を見ても、「不条理」なものが多いのに気づく。
    同じく35周年で先日上演された『そして誰もいなくなった』も、別役実さんの作の、モロ不条理劇だった。

    そういう「芝居としてあり得ない行為を敢えてやらせている」演出の劇団は、意外とあるのだが、それらしい劇団がやると、それらしく見えてくるということでもある。
    だから、東京乾電池という劇団の(なんとなくの)イメージとして見ると落差があるのかもしれない。

    つまり、「不条理劇をやる劇団」という路線から考えると、シェイクスピアだって「不条理劇」だ、とばかりに、こういう演出にしたのではないだろうか。

    また、こうも考えられる。
    台詞の1つひとつに情感を込めなくてはならないところを、早口で情感どころか相手のリアクションも考えずにしゃべらせる、それによって、「変な感じ」にしたいということではないのだろうかということ。
    それは、役者を(さらに)「下手」に見せてしまうのだが、同時に役者の「地」のようなものを露わにしていく。

    35年劇団にいる柄本さん、綾田さん、ベンガルさんたちは、それができたからだろう。実際、彼らはは、特に何か変なことを(あまり)仕掛けくるわけではなく、ハムレットの台詞を言っているだけなのに、なんとなくニヤニヤしてしまうような「味」が出ているのだ。

    実際、今回の舞台でも、そういう「味」のようなものが出始めている役者も見受けられた。
    そうではなく、自分の気持ちで演じている役者もいて、その幅を演出家(柄本さん)が微妙に調整していたように見えた。
    だから、階層がある。
    普通にいるだけで上手い人、自由に演じさせる人、普通だとかなり厳しい人、そんな感じだ。

    こうした企みは、本人の「地」が問われるということなので、役者は大変であり、失敗は手酷く自分に返ってくる。

    今回は(今回も)そうした「実験」のような「不条理劇」としての『ハムレット』ではなかったのか、と思うのだ。

    結局のところ、これが「東京乾電池」なのだ。

    私が観た回のハムレット(深水俊一郎さん)は、それほど「上手い」わけではなかったのだが(失礼!)、「若さ」と「勢い」があり、ときどきその台詞がそれにはまっているシーンもあったので、若さ故の「苛立つハムレット」を観た感じがあった。
    なるほど、その苛立ちが、周囲を傷つけてしまう結果となる、という、青春の蹉跌的なハムレットになっていた。

    あとから出演表を見ると、この人見たかったなあ、というのもあったりするので、そういう楽しみも、今後出てくるのではないだろうか。

    今回、柄本さんの出番が少なく、単に台詞だけでなく「仕掛けて」くる間がなかったのは残念だ。ちょっと吹いてみせるような演技を入れ込んできたが、それは十分でなく、もっと出演している時間が長ければ、「怪演」が観られたであろう。10年後の45周年には期待したい。

    ラスト&カーテンコールで流れていた、なぎら健壱の『ガソリンとマッチ』は、35周年を迎え、さらに先に進む、東京乾電池自身を奮い立たせる応援歌のように聞こえた。
    「いそがなくちゃ あわてなくちゃ 心の灯が消える ガソリンとマッチをちょうだい」(by なぎら健壱)。

    0

    2012/01/08 17:17

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大