満足度★★★★★
世界の東京バンビへ。
「俺達が倒れるのが先か!お前達が倒れるのが先か」
公演チラシには、72時間演劇という耐久戦らしいフレーズが並ぶ。そしていざ公演を終えた時、残ったのはチラシに記されている挑発的な対立ではなく、一体感そのものだった。
29日夜、劇団東京ミルクホールの佐野は、言った。
「さんまのまんま24時間みたい。演劇じゃないわね」
はやしとアダチ、稲葉の3人は深くうなづいた。
稲葉が、そっと話し出す。
「うすうす、気付いてましたよ」
そうだ、『72時間演劇』という名であっても、食事をしなければならない。食事を含めて『公演』とした場合、『演劇』を72時間し続けるのは難しい。
彼らは 舞台に、はやし君の家=生活の場を作り出し、客とトークを繰り広げ、飲み食いした。日常を表現するのも演劇だとしたら、彼らは 見事に それを再現したことになる。問題は台本があるか、ないかの違いである。
2011年、日本中がミゲル君の「消臭力」の歌に聞き入った。単調なメロディーには、力がある。
東京バンビのはやし君は、新宿二丁目で同じように歌い上げた。
「バンビ♪バンビ♪バンビ♪」
女性の自作歌も、ひたすらに。会場は笑い声が溢れ、客(ゲスト)であるミュージシャンの顔は満面の それだった。この時、アダチは一人はやし君の背中を見て込み上げるものがあった。
涙である。
しかし、後に待っていたものは、はやし君の喉が壊れたことだった。28日夜、ミュージシャンを目の前にして歌い上げた はやし君は メンバーの中で最も「倒れる」候補へなって行く。
72時間が経つ中で、彼らは常に客へのコミットを忘れなかった。オーディション開催中でさえ、見方を変えれば客の前で演劇をし続けたのだ。これは、凄いの一言だろう。
2011年、新宿二丁目・タイニイアリスから始まった男達の物語はいくつもの汗、涙とともに終わりを告げた。『72時間演劇』は、24時間テレビ(日本テレビ放送網)の百キロマラソンと同じように、終演というゴールまで 真っ直ぐに走り続けたその記録である。