うつくしい世界 公演情報 こゆび侍「うつくしい世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    台詞で語られず、シーンで綴られる物語だから
    初日を拝見。
    なんだろ、物語が台詞でくみ上げられていくのではなく
    シーンの重なりで綴られていく感じ。
    だからこそ、
    そのまま観る側の視野から五感にまで至る
    舞台の空気の豊かさがあって
    浸りこんでしまいました。

    ネタバレBOX

    冒頭、
    誕生を寿ぐ家族のシーンから物語が始まります。
    母親に戻される赤ん坊、
    それとそぐわない銃声・・・
    意図などわからないのですが、
    舞台の感触が肌触りで残る・・・。

    そこから、淡々とシーンが紡がれていきます。
    特に台詞がその場所の説明をしてくれるわけではない。
    ひとつずつのシーンの状況は
    その場の雰囲気や、キャラクターたちのしぐさや会話、
    さらに醸し出される想いから観る側に映し出されていく。
    舞台の絵面や空気が
    観る側の内側に
    その世界のありようをくみ上げていくのです。

    その街の広さも、人々の暮らしのディテールも
    断片的にしか見えない。
    でも、見えないから曖昧なわけではなく
    そこにはくっきりと伝わってくるものがある。
    歴史も生活の感覚も描かれるわけではないけれど
    でも、役者達は
    そこにキャラクターたちの雰囲気や刹那の感覚を
    しっかりと根付かせていく。
    幼子が絵本を読んで、
    その世界に取り込まれてしまうのって
    こんな感じなのかもしれないと思う・。

    そしてシーンたちは重なり、冒頭のシーンにも繋がって
    観る側を浸しこむように広がっていきます。
    作り手の描く世界のしたたかさが、
    観る側の意識の水面下に
    そのシンプルな世界を描きこみ
    驚くほどたくさんのことを織りこみ
    観る側に広げていく。
    畜空器や金貨、棘状の凶器、セロハンテープなどの道具立ても
    ぞくっとくるほどに秀逸で
    物理的なものも
    物語のニュアンスへとしなやかに編み込まれていく。
    後付けで言葉にしてしまえば
    空気が汚れていくことや
    貧困や格差のこと、
    独裁者のことや
    人々の心の豊かさや貧しさ、
    などとくくられるのでしょうけれど
    でも、それらは概念としてではなく
    もっと細かいイメージとなって観る側の内側に織り上がっていくのです。

    絵本の世界の虚と現の時間の区別がつかなくなるように
    なにかがすっと入れ替わって、
    その世界の肌触りのなかで
    それぞれのキャラクターの想いに染められていく。
    清いものであっても醜いものであっても
    舞台上の人々の心情を受け取るの中でなく
    もっと内側から染められていくような感覚にまで
    引き入れられて・・・。

    役者たちのお芝居にも
    特に大仰やあからさまなデフォルメを感じるわけではない。
    でも、そのトーンのなかに
    高い解像度で細密に織り上がるものがあって。
    銃声も、恋する気持ちも、死者への喪失感も、
    愛するものへの想いも、
    貧困の感覚も、
    支配者のロジックも、
    憎しみや恨みすら
    それらの事象や刹那のあるがままのごとくやってきて。
    舞台の広がりは、そのままの感覚で沁み入り
    抱いているものと結びついて
    観る側の物語に変わっていく。
    舞台の、そして役者の演技に向かい合うという感覚から、
    もう一歩踏み込んだ質感が生まれて
    場の色やキャラクターに浮かぶものが
    そのまま、自分の感覚になっていく感じ・・・。
    それは愛情のぬくもりや
    恋する心や
    思いやる気持ちの清いものにとどまらない。
    よしんば、
    それが独裁者の想いであっても
    保身や訪れることの醜さであっても
    陥れることであっても
    さげすみであっても、
    人の死の軽さですら、
    役者が描き上げた
    あるものがあるがごとく感じられる。

    そうして観る側が抱いた物語の終盤には、
    たくさんの含蓄がありました。
    そして、深く満ちていくものに
    ゆっくりと心を揺すぶられた。

    多分、作り手にとっても劇団にとっても
    エポックメイキングになるような作品なのだと思う。
    少なくとも、これまでに体験したことのない感覚で
    演じ手たちの世界に浸されたことでした。

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    2011/12/23 13:17

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