Oi-SCALE企画公演オムニバスof Oi Oi vol 3 公演情報 Oi-SCALE「Oi-SCALE企画公演オムニバスof Oi Oi vol 3」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    すべてはつながっていた。
    この公演は5人の作家がエレベーターorエレベーターホールというシチュエーションを用いて執筆し、3作品ごとの2プログラムで上演するというもの。私はBプログラムを拝見。
    3人の作家の描いたことに共通しているものは「痛み」と「記憶」であったようにおもう。

    ネタバレBOX

    楽園王『塔』。都会の雑踏のように不特定多数の人々が黙々と往来するエレベーターホールの光景は、その運動に絶えかねる人間の息苦しさであることが次第に露呈されていく。これはスズキという架空の人物を創造しその男にSOSを送る女の、現実からの切ない逃避行だったのだ。女は最後『塔』のてっぺんに幽閉させた過去の記憶を取り戻しに行くことを決意する。
    自問自答を繰り返し自身に赦しを与えるまでの精神の葛藤を、儚い夢との決別によって、描いていた。

    reset-N『Perspective』。エレベーターに乗る、または乗り合わせた人々の様相が監視カメラの映像を俯瞰しているかのような一歩引いた目線で描かれる。センスの良い音楽と青を基調にした照明が殊更心地よいうねりを生み、ひとつひとつのシーンがスタイリッシュでとにかく格好いい。しかも、その監視カメラの役割を担うのがエレベーターのなかに棲む女性の幽霊だったというのも洒落ているし、彼女に恋する男との場面は気恥ずかしくなるほどの純愛で。またある場面では、根深い差別について問う一幕があり、閉鎖されたエレベーターの扉を開けることから未来がはじまることを、それが痛みを緩和させる手段であろうことを、暗喩しているようにおもわれた。この短時間のなかで、社会問題と人間ドラマをメッセージとして伝える手腕がお見事。

    Oi-SCALE『童話が生まれた日』。布団にくるまるひとりの少女の世話をする看護士。時々見舞いに訪れる親族。その光景は、これまでの2作品で描いていた場所が、病院のなかであったかもしれないことを、予感させる。そして、少女は老女であるかもしれないことも。彼女はもうすぐ死ぬのだろうか。そんなことを考えていると、ひとりの青年がひょっこりやってきて、自分が目指す、理想の場所について語りはじめた。そこは煙突の煙を目印にあるいて行けるのだろうが、遠すぎてなかなかたどり着けないのだという。またある日、その病院でかつて血なまぐさい事件が起きたということを彼女は知る。その犯人はあの青年であるらしいという噂も。しかし、彼女の心の拠り所は、今や、あの青年との交流のなかからでしか得ることはできなかった。たとえそれが、夢のなかの出来事であったとしても。そして、青年が猫を殺す度、夢は汚されて、その上を現実がひたひたと足音をたてて近づいてくる。青年の手招きに乗った彼女のその後は明かされないまま、話は終わる。

    不思議なことに、そこにはやわらかな温度しか残らなかった。青年が彼女を閉ざされた世界から救済したのだろうとしかおもえなかったのだ。それに、痛みをぬぐい去ることができるのならば、どんな方法であってもいいのだろうな、とおもった。そうしてすべての狂気が、窓から差し込むぼんやりとした橙色の淡い光のなかに飲み込まれていくような気がした。こんなにもあたたかな気持ちに満たされるとはおもいもよらなくて一瞬戸惑ったけれど、それはとても心に染み入った。

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    2011/12/20 19:43

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