官能教育第四弾「藤田貴大(マームとジプシー)×中勘助『犬』」 公演情報 Produce lab 89「官能教育第四弾「藤田貴大(マームとジプシー)×中勘助『犬』」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    原作を原点に取り込んで・・・
    演劇の構造自体にまで座標軸を広げて・・・。
    重なりがしなやかに作りだされて。

    リーディングの態を逆手にとって
    役者の力、さらには演劇の力が
    がっつりと引き出されていました。

    ネタバレBOX

    客電が落ちて役者が現れます。
    冒頭の素を演じる山内健司的自己紹介、
    カンニングペーパーを示して
    この舞台の原点にピンを立てる。

    青柳いづみ的な距離感が
    観る側に、原点からのいくつもの彼女の立ち位置を観る側に示す

    尾野島慎太郎的なあからさまな存在感が
    それぞれの立ち位置にリアリティを注ぎ込んでいく。

    いくつかの台詞と身体で
    刹那に場をすっと立ちあげていく作り手のメソッドが生きる。
    浮かび上がる表層的なキャラクターの姿と空気の染まり方、
    風景の現出・・。
    役者としての女性、キャラクターを演じる女性、
    リーディングされる作品中の女性
    二人の青柳さん、そして三人の青柳さん・・・、
    認識の共有を確認する言葉が
    素敵に脱力系な言い回しで織り込まれていきます。

    一見ルーズに、でも極めて確かな足腰で
    役者たちがイメージを広げ始める。

    ひとつずつの世界の中に、
    織り込まれていく動きの秀逸、
    描き出され、繰り返され、実存感に満ちていく空間・・・。
    藤田作劇の引き出しが、
    役者たちの豊かな力量とともにしなやかに場を組み上げていく。
    それは平板にリーディングされる中勘助の原典であり、
    そこから作家の創意とともに浮かび上がる風景であり
    演劇の世界を演じる態でさらに派生した楽屋の光景。

    観る側に密度をもった肌触りを与え続ける中でも、
    かっちりと演劇の世界が定義されていることで
    それぞれの世界が混濁し滲むことがない。
    観る側は原点にあるカンニングペーパーからの各階層を
    舞台の流れに従って降りた戻ったりしていく感じ。

    そして少しずつ重ね描かれていく世界たちに
    広がりが生まれる中で、
    まるで、回転錠の番号が揃ってロックが外れるように
    それがどの階層にも織り込まれた「犬」の世界のコアが重なる。

    淡々とつぶやかれ、並べられるように
    女性の性的体験が導かれて・・・。
    視線に込められ、あるいは突然に姿を現わす劣情、
    男性がすっと縛めから解き放たれ
    女性の扉が押し開けられて、
    さらには男たちの殺生の世界へと広がっていく。
    刹那の繰り返しに加えて
    階層ごとに描かれた物語の重なりが、
    よしんば、あからさまな表現であっても
    それを観る側の劣情だけに丸めこまず
    人が普遍的に持ち合わせた
    歯車のかみ合わせの感覚にまで導く。

    醜さと美しさと淡々とした普遍の感覚・・・。
    それらがあたりまえのように観る側に降りてきて・・・。
    でも、世界がカタストロフ的に崩れて
    カオスに陥っていくわけではないのです。
    観る側にとっても演じ手にとっても、
    「そういうことになっている」という
    演劇の骨組みに守られている感覚があって。
    作劇の秀逸が空間を共有する規律を醸し出し、
    演じる側も踏み越え得るし
    観る側も受け取りえる世界が
    端正な容貌を崩すことなくそこに生まれる・・・。

    女性の体験や想い、
    さらには男性の憎悪や殺意は
    観る側にとって好奇な想いや
    目を背けるような感覚や、
    触れることへの嫌悪を伴うもの。
    でも、そのコアの部分を混沌に埋めたり、
    拡散させたりぼかしたりせず、
    そのままに舞台の技法にのせて現わしていく作り手の姿に、
    なんだろ、原作に対する矜持のようなものも感じて。

    ピュアとか昇華されていくというのとは少し違う。
    圧倒的な重さや切っ先があるわけでもない。
    観終わって、エロさも衝動的な感覚も
    浄化されることなく残る。
    なにか、情けない感覚が浮かんだり
    刹那がどこか滑稽で面白かったりもする。

    終演後の素舞台を眺める中で、
    初めて
    それらを含めて抗うことができず、圧倒され、
    幾重にも捉われていたことに気がついたことでした

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    2011/11/26 11:51

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