満足度★★★
女達によって語られる宮沢賢治
『春と修羅』を中心にした宮沢賢治のテキストの断片を能の様式を用いて語り、静かで緊張感のある作品でした。
暗闇の中で7人の役者達が『かしわばやしの夜』の一節にある「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン」の「ぽ」の音を断続的に発音し、次第に前後の文字が増えてきて文章になるという実験的なシークエンスから始まり、『春と修羅』の序文の一節やエッセイ、童話が能ならではのゆったりと発声と動きで読みあげられました。「ドドドド…」と言いながら床を踏み鳴らすクライマックスを経て、また『春と修羅』の一節が語られ終わり、真っ暗で静寂な時間が印象的でした。
黒い床と奥の壁で照明も薄暗く、動きの少ない役者達だけが浮き出て見えるような幻想的な雰囲気が美しかったです。能装束の雰囲気を残しながらもモダンな感じの衣装も素敵でした。
望月京さんが担当した音楽は聞き覚えのある響きがあったので、おそらく書き下ろしではなく、過去に発表したアンサンブルやオーケストラの曲を使っていたと思います。新鮮な響きがたくさんあって音楽単体としては面白かったのですが、フルオーケストラの音楽はこのような静かな作品には大仰過ぎると思いました。また『春と修羅』の序文のシーンで流れるピアノ主体の曲(たぶんこの曲は望月さんの作品ではありません)は叙情的過ぎて緊張感を途切れさせている様に感じました。
能の様式を現代的に解釈した演出は面白かったのですが、全員で同じ台詞を言うシーンなどはもっと精度が良くなると思いました。来年、赤坂REDシアターでの完全版の公演では更に洗練された作品になっていること期待しています。