【東京バンビ】ピクルス ご来場ありがとうございました☆ 公演情報 元東京バンビ「【東京バンビ】ピクルス ご来場ありがとうございました☆」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    .笑いの先があるコメディ
    勘所ではしっかりと笑いを取りつつ、
    笑いだけに塗りこめられることのない、
    深さをしっかりと持った作品でした。

    一発芸的な笑いもあるのですが、
    シチュエーションが作られた上での可笑しさが
    物語を編み上げていく。

    観終わって、コメディという範疇では収まらない
    感覚のリアリティや感慨が残る秀作でした。

    ネタバレBOX

    冒頭のトイレ設備の瞬殺ネタや、
    物語を俯瞰するような語り。
    ちょっと駄目っぽい男三人が集まった舞台の絵面には
    サクっとした笑いに満ちた
    トホホ系のコメディのイメージしかなかった。

    ところが、小学校の同級生の妹という女性がやってきて、
    札束のはいった分厚い封筒を押しつけていくところから
    物語が意外な方向に展開していきます。

    その同級生のキャラクター設定は
    かなり凄まじいものなのですが、
    役者の作り上げる彼の世界には観る側に有無を言わせぬ説得力があって、
    舞台上の他のキャラクターたちを根こそぎ巻き込んでいく。
    一旦舞台の世界に取り込まれてしまうと
    その展開に無理がなく、
    伏線もがつがつと効いて、
    笑いの先にキャラクターたちの感覚が鮮やかに浮かび、
    観る側に積もり広がっていく。

    居酒屋のシーンが実に秀逸。
    気づまりの中から
    それぞれのキャラクターに仕込まれていたものが
    予想外のあらぬ方向に溢れだす。
    それぞれのキャラクターの貫きにきちんと理があって
    ドミノの倒れていき方に無理やあざとさがなく、
    場には幾重にも膨らむ歯止めを失ったような
    おかしさとペーソスが醸し出されて。

    単に友人の彼女の本当の姿が開示されるだけではなく
    そこからさらに物語の骨格の一つに広がったり
    献身的な妹の内心の決定的な開示に繋がったり。
    仕事場であるコンビニの雰囲気を醸すワイルドな客の女性が
    意外な形で中盤以降の物語を支えたり。
    観る側に先を読ませない伏線の張り方や展開や、
    しっかりとボディーと踏み込みをもった笑いから
    すっと溢れだすキャラクターの心情に心をつかまれてしまう。

    キャラクターたちが醸す笑いが、
    ワンショットではなく別なシーンにその色を変えて
    観る側にやってくることで、
    コメディとしての豊かさもがっつり広がっていきます。
    コンビニ店員が廃棄弁当をもらう定番の理論武装として
    地球環境を語るうざさに苦笑していると、
    それが、余命いくばくもない相手にぶつけられて
    凄みを持った笑いに塗り変わる。
    主人公の友人の恋人が
    実は主人公も学生時代にお世話になった
    現役のデリヘル嬢だったという展開も切なく笑えるのですが、
    そのデリヘル嬢が使い捨てにされず
    後半「チェンジ」を宣言される展開に
    物語の裾野がさらに広がって。

    見せるものと見せないものの切り分けもしたたか。
    そこがどのような病院なのか、
    引きこもりの男性の生活の実態、
    同室の患者の心情、
    前述の、コンビニの客の正体や妹の献身を裏打ちするものにしても、
    その表わしかたに無理やずるがなく、
    観る側を一歩先んじる力があって。
    その切り分け力は、別の表現力ともなって
    人の生き、死ぬ感覚までも
    浮かび上がらせる。
    死を待つ同級生とそうでなかった者の対比の
    淡々とした鮮やかさに息を呑む。

    そして、物語は、
    やがて曖昧に置かれたコンビニの店長の心風景をも
    描き出していきます。
    投げかけられた
    「ボランティアに行って、恐ろしくなって戻ってきたような」という比喩が
    ぞくっとするほどにまっすぐ
    死に直面した同級生に対する彼の距離感や心情に重なる。
    一人ずつの生きる感覚や死への想いが
    笑いたちの先に鮮やかに広がって。

    物語を包括するような語りの挿入や
    タイトルの、ハンバーガーに添えられたピクルスが
    舞台の世界に大外の枠組みとなって。
    いくつもの場面で何気に食べられていたハンバーガーが
    最後に舞台を引き締める。

    要所要所がきっちり作り込まれた
    コメディとしての魅力に加えて
    ビターさや透き通った感覚を内包した
    コメディという範疇に収まりきらない舞台の質感が醸し出されて、
    がっつりと掴まれてしまいました。

    過去に観たこの劇団の作品も決して悪くはなかったのですが、
    そこからさらに、何段階も進化して、
    MCRの主宰を役者としてしっかりと機能させて・・・。

    秀作だと思います。

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    2011/09/30 07:45

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