宮澤賢治/夢の島から 飴屋法水『じ め ん』/ロメオ・カステルッチ『わたくしという現象』 公演情報 フェスティバル/トーキョー実行委員会「宮澤賢治/夢の島から 飴屋法水『じ め ん』/ロメオ・カステルッチ『わたくしという現象』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    グラウンド・ゼロからはじめるセカイ
    観劇。というよりもその場に居合わせたというか、これまでなかったことにされてきた歴史的な空白、いないものとされてきたわたしという存在との痛切な和解に向き合いその瞬間に立ち会ったという感覚の方が近い。

    ネタバレBOX

    腐敗した死体に群がる虫のような人工的なモスキート音が耳をつんざく不快感に苛まれながら背丈よりも高い白旗を掲げ整列し円の中心部に向かって歩く。
    ザッザッザッ。足並みの揃わない不協和音に負のエネルギーがどんどん蓄積されていくような薄気味悪さが押し迫り、高揚感と恐怖感が入り混じりる。
    旗を広げゆっくり腰をおろすと気分が随分和らいだ。
    木々のざわめきに耳を済まし、風の音を聞き、天を仰ぎ、流れる雲をみつめ、星を数える。いま、ここ、に、わたしが、あなたが、わたしたちがたしかにいることを噛みしめる。
    そうしてる間に、ゆっくりと足音をたてずにそっと、『わたくしという現象』ははじまった。

    ひとりの小さな男の子がぽつんと椅子に座ってる。でもあんまり楽しくなさそう。
    地球上にはまるでこの子しかいないみたい。
    そこにひとりの男がやってくる。お父さんだろうか、それとも神さまとかいう実体のないひとだろうか。あるいはそのどちらでもあるのだろうのか。

    男が無言で語りかけると少しずつ時空が歪んで、この世のすべてが飲みこまれてしまった。
    とめどなく流れてくるおびただしい数の白い群れ。
    匿名の死が尊厳なく物質と化していく『現象』は3.11の光景と、旧約聖書の洪水神話とが透明な糸でねじれながら結束しているようにもみえる。

    まるでそれが『天命』だったんだ、仕方がないな。としか言われようがないような救いのない世界。
    悲劇で埋まったじ め んに降り立ち、死んだものたちへ聖歌をささげる天使たち。
    彼らは死者そのものであり、生まれ出ずるものたちへ何かを投げかけているようにもおもえる。

    やがて大地の沈黙を切り裂く音、誕生を告げる合図が鳴り生命は息を吹き返す。
    辺り一面、漆黒の闇。
    遠くの方で誰かが旗を振っている。
    わたしたちは、じ め んに立ち、旗を振った。誰からともなく旗を振った。
    誰かへ、あなたへ、わたしへ、わたしたちへ、大きく力強く、旗を振った。

    それは助けをもとめる絶望から、大丈夫、ここにいる。ことを教えるサインへとだんだん
    変わっていったとおもう。
    だから、最後、父と子が固い握手を交わしたその先の、どこまでも果てしなくまっすぐに伸びていくような青い光には希望しか見出せなくて。少しだけ泣いた。

    舞台転換するための20分間の休憩はぼんやり夜空を眺めてた。
    この空が世界を繋いできたことをおもうと、なんだか不思議な気持ちになったりもした。

    『じ め ん』は少年がスコップで地中に穴を掘る場面からはじまる。
    「a deep at hole!!」(どんどん穴を掘れ!)という心のなかに響く声に従って。

    その穴は、『夢の島』にゴミを捨てるためにあけた穴であり、やがて自分の死体が埋まる穴であり、タイムホール(時空の穴)でもある。
    掘れば掘るほどあらゆることの『ほんとう』をみつける手掛かりになるモノがたくさん埋まってる場所。

    少年は出会う。
    ポツダム宣言を受諾する天皇陛下に。ヒロシマ、ナガサキに。a little boyに。マリアに。ポーランドに。人類に。宇宙のはじまりに。

    そして知る。
    彼が生まれた日のことを。父が死んだ日のことを。
    彼の生まれ故郷が、今はもうないことを。

    それでも彼は冒険を続ける。
    父親の墓標にも似たモノリスという名の飛行船に乗って舵をきり、宇宙を漂い、時間を、記憶を、歴史を、時代を、サーフする。
    たとえすべてが夢であったとしても。

    『目をとじてください』
    『そこからは何がみえますか?』

    なにもない、虚無の穴。グラウンド・ゼロ。
    国旗のない旗を胸に抱き立ちつくするわたしたちに語りかける無人の声。
    そこに救いはないけれど、その『Point』から未来をはじめることに気負いはないよ。

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    2011/09/18 11:51

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