満足度★★★★
フレッシュレモンになりたいの!
古くからの友人が、若くて頑張っているかわいいダンサーがいるから観に来いと言うので行ってきた。
ネットで調べると、本格的にダンスに取り組んでからまだ1年ほどらしい。大学が体育系でそこでダンスを学び、その延長線で表現の魅力に取りつかれ、のめりこんでしまったようだ。
良くある話だ。
自分も若い頃、後先を考えず、ただ今の自分の存在を捜し当てたいがためだけのそんな何かを探していた時があったよな、なかったような。
普段は大阪で暮らしているようで、きっと生活の基盤は関西にあるのだろう。それがどんな意志やきっかけがあったのだか、初の単独公演を東京でやるというのだ。
予告編と称して未完な練習映像をネットで公開したりしているが、それを見ても、一人であのアゴラのステージを埋めることは、かなりハードルの高いチャレンジだと思われた。
しかも彼女にとってはアウエィの東京で、初めて1年なら東京まで来てくれるファンの数もしれていることだろう。
独りはつらい。
正直期待していなかった。
でも客電が落ち、次にスポットの中に現れた彼女の第一声にぞくりとする。
「私のフェチの話をしてよろしいでしょうか」
うん、いい。
声がいい。
この立ち姿がいい。
彼女が独りその空間にいるのがいいのだ。
ダンスのレベルやら構成やら演出やらも、それぞれに言おうと思えば言えるのだろうが、今回は大阪から独り夜行に乗ってやってきた童顔な年齢不詳のクリタマキが、何を思ってか精一杯そこにいたというのが、とても心地良かった。
これを才能といい可能性といい未来というんじゃないのかと思わせてくれた。
1時間弱の短いステージではあったが、彼女が去ったステージの小道具として使われたレモンの残り香に、今度は彼女とどこで出逢えるのだろうかとときめいた。
それは梶井基次郎が夜の果物店の裸電球に、レモンエロウに浮かび上がる正にあの独つの「檸檬」との出逢いそのものだった。