明けない夜 完全版 公演情報 JACROW「明けない夜 完全版」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    かっちり組み上がっていた昭和レトロな物語
    まるで昭和に撮られた映画のような雰囲気。
    ちょっとした「実験的」とも言える「構成」の面白さもある。

    ネタバレBOX

    かっちり組み上がっていて、それを観るのは気持ちがいい。
    とても昭和レトロな物語となっていた。
    こういう言い方は、どうかと思うけれど、まるで1960年代の松竹映画を観ているような感じか。

    つまり、ストーリーそのものが昭和的であり、その中で演じる役者の台詞や身のこなしなども「昭和」の匂いがプンプンなのだ。驚いたり、反応したり、言い合ったりが。あのボンボン社長が若い女子社員にもてるのも昭和的だ(笑)。
    昭和だから、そういう台詞で、そういうリアクションをする、ということを、昭和の映画を参考にしたのではないのか? と思ったほど。すべて既視感のありそうなものと言うのは言い過ぎか(実際、それが強すぎるところでは笑いが起こっていた)。

    また、役者たちが演じるのは、とても輪郭がハッキリしている人物たちであり(悪く言えばステレオタイプを貫き通している)、その組み合わせ方が巧みだった。

    彼らが生み出す、ギスギス感がたまらない。警視庁と所轄、夫婦間、社長夫人とお手伝い、従業員間、古株従業員と社長、社長と愛人、とにかく人が顔をつきあわせるとギスギスしてくるのだ。このあたりも昭和の人間関係な感じがしてしまう。

    ただ、そうした「昭和的な作法」に則ったとしても、見応えはあった。

    そして、それを支えるセットなどがとてもよかった(初演のときも良かったのだが)。2階と階段や、廊下から階段を歩く「音」、玄関の動きと「音」そういうあたりがとても気が利いていた。
    さらに、庭に雨上がりの雫がたれている、なんていうのはなかなか憎い演出であり、事件の核心の雷雨との関係も憎いのだ。

    ただし、そうしたセットなどに気を遣うのだあれば、3カ月前、2カ月前、1カ月前などの時間の変化による衣装も、もう少し気を遣うべきではなかっただろうか。そこは少し残念でもある。

    この舞台は、再演だ。
    初演は、本編+外伝という構造になっており、今回の舞台を観ることで、初演の構造がいかに素晴らしいものであったか、の確認をしたような気がする。
    つまり、初演では、本編で全体のストーリーを見せ、外伝(全登場人物の一人芝居×5分間)で、それぞれの人物を通じて、物語や人の肉付けをするという構造は、観客に想像させる「隙間」がきちんとあった。
    その「隙間」によって、物語は観客それぞれの中で膨らみ、傑作となったと言っていいだろう。
    もちろん、今回も初演とは別の「構造的」な良さはあったのだが、観劇の喜びという面からは、前回のほうに軍配を上げたい。

    今回の「構造的良さ(構成の良さ)」は、本当のラストの前に、まるで舞台が終わったかのように、社長夫人とその娘が出てきて観客に挨拶をしたのにもかかわらず、その後にも演劇が続いたというところだ。
    ここで、表面上の物語は終了した、つまり、犯人と動機は課長が社長に告げた内容で幕引きになった、ということを示し、本当の物語はこうだった、と観客に告げるシーンが続いたというわけなのだ。
    これには唸った。面白い。

    そして、前回も同じ感想を持ったのだが、この舞台で一番泣けてくるのは、第一幕終了のように、社長夫人とその娘が手をつないで現れる、そのシーンだ。
    演劇としては、ここまで入るのかどうかはわからないが、社長夫人と娘は、本来こういう姿でいなければならなかったのに、という想いが強く伝わってくる。
    これにはやられた。ギスギスしていた人間関係に、本来の親子愛が見えたというか。
    また、終演後のアナウンスを娘にやらせるのはずるいと思った。
    演劇としては、ここは入らないとは思うが、「役」としてしか観ていない子どもの声には、このストーリーの結末が脳裏にあるので、胸が痛くなるのだ。

    「死」関するような台詞(死んだとか、殺したとか)が一切「音」として出てこないところもなかなかだと思った。

    役者は、社長夫婦(和田秀人さん、蒻崎今日子さん)がイヤな感じ満載でいい。社長夫人の娘への愛情が表れてくるのがいいし、保身しか考えてないボンボン社長というのが、うまいのだ。

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    2011/08/29 08:06

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