満足度★★★★★
「ニヒル」ではない、問題提起
平凡な人の平凡な生活に潜む悪意を描いて見事でした。
そしてそれは、非凡な人の平凡な悪意を嫌味なく描くことなしには成立しないものだったとも思います。
たくさんの悪意や欲望にさらされて、右往左往する主人公の兄弟。でも実は、この場で明らかになってくるのは、「被害者」風でもある彼ら自身の悪意、そして、いつでも「他者」として生きていたいという愚鈍な態度でもあるのです。
「当事者性」とはなにか。この問題は、震災直後のさまざまな議論を思い起こさせますし、その問いは今も、私達の目の前に置かれています。
ですから、この芝居に簡単に感情移入しようとすると痛い目を見る。では、だからといってこの芝居は、悪意を露呈させて笑う「ニヒル」な作品だったのでしょうか。少なくとも私はむしろ、これが「ニヒルではない」ところが好きなんですけどね。