満足度★★★
静謐な60分
雑誌や瓶などいくつかの小道具が置かれた素舞台で8人が静かに動き、雑誌や戯曲から引用された断片的なテキストをモノローグとして語る、心地良い緊張感が漂う作品でした。
冒頭に読まれるテキストが福島第一原発周辺のルポルタージュで、劇場で行われていることも現実の一部であることを印象付け、その後に現れるイプセンやベケットのテキストも「洪水」や「水葬」といった単語が出てくる箇所を抽出していて、東日本大震災との関連を考えさせる構成になっていたように感じました。
台詞を語る時間と語らない時間が同じくらいの分量で、身体表現が重視された演出になっていましたが、日常的ではなく、いわゆるダンス的でもない、能の所作のような非常にゆっくりとした動きが多用されていて、時間感覚が麻痺するような感じを受けました。出演者の身体表現のレベルにかなり差があり、特殊な動きから立ち上がる緊張感があまり出ていない役者がいたのが残念でした。
台詞回しに関してはテキストに合わせて日常的な発話法から、いかにも演劇的な発話法を使い分けていましたが、役者の力量もあるのか、手紙や記事を読むシーンでの口語体での発話はあまり印象に残りませんでした。
戯曲のダイアローグの場面を1人で演じるというか語ったり、戯曲を読むパートが終わるときに「はい」という掛け声で一気に空気感を変えたりする仕掛けによって物語の世界に没入しないようにするテキストとの距離の取り方に清々しい印象を持ちました。