いないいない 公演情報 ガレキの太鼓「いないいない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    謂われなき不安と恐怖
    今現実に起こっていること、あるいは歴史的に起こっていたことを、意欲的、実験的な手法で描いていた。

    ネタバレBOX

    ある日、理由も(ほとんど)なく、選別されてしまったことによる不安と恐怖。具体的に見えないものへの恐怖でもあることは、言うまでもなく今、現実に起こっていることとリンクする。
    「なぜ私が?」という問い掛けは、選別されてしまった人の口から、必ず発せられるだろう。現実の世の中では、原発事故による放射能汚染からの避難はまさにそれである。謂われのない選別と不安・恐怖である。

    それは、今現在のことだけではなく、歴史にもたびたび顔を出してくる。例えば、人種、民族、宗教などなどによる選別と迫害。
    何かにより選別され、その結果迫害される、そんな歴史は枚挙にいとまがない。
    人は他人と違うことを探し、それを攻撃したがるのだ。

    舞台の上でも、通知が来ることで何らかの被害を被るであろう人々が、終わることのない「かくれんぼ」をしている。
    一度その隠れ家に入ってしまえば、二度と外に出られないことはうすうす感じている。

    それはまさに、ガレキ版『アンネの日記』か。
    いや、そうはならなかった。そこはあえて避けたのかもしれないが、その要素がいくつかあれば、もっと面白いものになったのではないだろうか。

    基本、人は善意である、というもとに成り立っている物語ではないかと思った。ある狭い場所でいざこざらしきことが起きるのが、何カ月も経ってから、しかもすぐに鎮火する、というあたりがそれであり、隠れている人たちを支える人もいる。

    とても意欲的な作品だとは思ったのだが、特に前半のリズムの悪さが気になった。それぞれのドアの開け閉めがあるということから、しょうがないことなのかもしれないが、後半、それが少し解消されるのだから、もう少し何かやりようがあったのではないかと思ってしまった。

    舞台を観ながら思ったのは、なぜみんなそれぞれが家具の中に隠れているのか、ということだ。普段の生活は全員が室内出ていて、寝るときや、何か起きたときに隠れるのが普通ではないだろうか。
    例えば、「アンネの日記」でも「戦場のピアニスト」でも隠れて生活するときには、そんな感じであったからだ。
    だから、そうしないことへの理由が欲しかったと思う。ほとんど寝るシーンばかりだから、ということもあろうが、それでも中央に集まって、というシーンが少なすぎるのではないか。

    それと、身の危険を感じて隠れているのにもかかわらず緊迫感がない。具体的に何をされるのかがわからないという恐怖というより不安が支配している状況だから、そういう緊迫感が生まれにくいということもあるのかもしれないが、それでも異常な状況であるのだから、もっとヒリヒリ、ビクビクしていてもいいのではないかと思うのだ。

    さらに言えば、疲弊感もあまり感じられない。1年以上もそうしているのにもかかわらず、夏の暑さにだるくなるぐらいで、疲弊したり、人間関係がギスギスしてこないのだ。あの狭い空間では何が起こっても不思議ではないと思うのだから。

    そうした、リアルだ、と感じる要素が少ないような気がした。
    こうした、ある意味不条理な世界観を立たせるためには、そうした下支えが必要ではなかっただろうか。
    失礼を承知で言えば、もっと練ったほうがよかったのではないかと思う。
    そうした「リアル」を取り込んで、ここは「ガレキ版・アンネの日記」でよかったのではないかと思うのだ。

    しかし、ラストはとてもいい。こうした予想外の展開はうまいとしか言いようがない。
    深読みすれば、どんな大変なことが起こったとしても(震災とか放射能汚染とか)、時間が経てば、世の中から忘れられてしまうのだ、というきついメッセージが込められているように思ったのだ。
    透明になってしまった人々は、世間からも他人からも自分にとっても、存在がなくなってしまうという怖いメッセージでもある。
    ただし、現実とのリンクや、メッセージ性が直接的すぎて、少々物語的な面白さが消えてしまったような気がしないでもない。
    もっと、ラストに見せてくれたような、センスを全編で見たかったと思うのだ。

    役者は皆うまい。地に足が着いている、その存在は「リアル」さがあったと思う。それだけに、物語全体にもそれを支えるリアルさは欲しかったところである。

    ちょっと気になったのだが、「なんでこんな目に遭わなければならないの」的な台詞はNGワードではなかっただろうか。そんな台詞があったら、ちよっとイヤだなあと思って見ていたら、残念なことにあったのだ。その台詞が特に生きてくるわけでもなしに。

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    2011/06/04 07:43

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  • みささん

    コメントありがとうございます。

    ネタバレ読んじゃうと、ラストとかちょっと想像ついてしまうのでは。
    でも、この見方は私特有で、高評価な皆さんの見方のほうが正解かもしれませんね。
    是非、ご自分の目で確かめてみてください。

    2011/06/08 04:16

    なるほど。「ガレキの太鼓」にしては主要なメンバーの評価がそこそこなので
    気になっていましたが 、そうゆうことなのですね。
    ワタクシも拝見しますが、気になる公演は下調べをしてから観る性質なので
    アキラさんの詳細でかつ、的確なご感想は、ひじょうにためになります。

    2011/06/07 14:01

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