紅き深爪【沢山のご来場誠にありがとうございました】 公演情報 風琴工房「紅き深爪【沢山のご来場誠にありがとうございました】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    観る側に受け身を取らせない
    そこにあるのは
    身構えてしまうような
    とても重い話だと思う。

    にもかかわらず、舞台の研ぎ澄まされた空気が
    観る側を無抵抗にして
    その感覚を流し込んでしまう。

    息をつめて見続け
    観終わって初めて、
    自分が抱えているものの深さに気づき
    愕然としました。

    ネタバレBOX

    病室らしいこと以外
    その場のシチュエーションもわからぬままに
    冒頭からいきなり、女性が醸し出す
    その場の空気に捉われてしまう。
    主婦然とした容姿、
    赤いリンゴをむく女性の指。
    看護師の言葉が基準線のようになって、
    彼女から醸し出される空気の偏りが伝わってきます。
    そこに彼女とは反対の雰囲気をもった
    酒に酔った姉が現れて。
    更には、姉の夫や彼女の夫と娘が病室を
    訪ねてくる。
    死の床につく病人の傍というのとは異なる
    息の詰まるような空気が
    人物達それぞれから広がって
    舞台上に重なっていきます。
    解けて次第に露わにされていく彼女達の幼い頃。
    児童虐待という言葉が直感的に頭によぎるのですが、
    そのイメージでは納めきれないような、
    姉妹の家庭の雰囲気があからさまになっていく。

    役者達から伝わってくるものに
    歪みが感じられず
    あるべくしてそこにあり、
    溢れるべくして溢れ出してくる中で、
    今まさに終焉の時を迎えようとしている、
    彼女たちの母親の行状も
    丸められることなく彼女達の感覚でそのままに伝わってくる。
    身籠った姉の不安や愛情の行き所のなさも、
    病室で言葉を発することなく
    ただ心を硬くしている娘に注ぐ愛情が伝わらないことへの
    妹の制御できない苛立ちも
    そのままに舞台にさらけ出す力が
    役者たちにはあって。
    舞台上の密度と肌触りに、
    観る側は眼前の光景に心を閉ざす術もなく、
    ただあるがままにその姿を受けとめてしまう。

    彼女達の母親から伝播したものが
    やがて彼女達の子供たちへと伝わっていくことも、
    そして、夫たちをも巻き込んでいくことが
    とてもナチュラルに感じられる。
    妹が紅い爪を短く切り続けることも
    姉が酒の溺れてしまうことも
    妹が娘をたたくことですら・・・
    そして、姉妹の夫達が彼女たちのコアに取り込まれて、
    常ならぬ結末へと繋がっていくことにも
    不思議なくらい違和感を感じないのです。

    見終わって、
    たとえば、主人公の姉妹が受けた
    虐待の物理的な痛みについては、
    あまり実感として心に残ってはいませんでした。
    もし、役者たちが、
    時間をさかのぼって
    その場のイメージを膨らませるようなお芝居をしていたら、
    顕された痛みは観る側の心を引き裂き
    目をそむけたくなるような感覚として残ったのでしょうけれど、
    病室で過ごす時間での研ぎ澄まされたお芝居は
    虐待による物理的な痛みを、
    彼女たちの記憶の質感でしか伝えない。
    でも、上手く言えないのですが、
    そのことで修羅にまみれずに見通せる
    深淵があって、
    観る側はその闇をなにかに閉じ込めてしまうことが
    できなくなってしまう。
    たとえば「虐待」というラベルを貼ってまとめようとしても
    観る側自らの手の届かない深さに、
    彼女たちが抱え抑え込むことのできない
    歪みの質感が、
    概念ではなく、
    鋭利な刃物が突き刺さった時の冷たく逃げ場のないような感覚として
    置かれていくのです。

    その感覚は、劇場を出ても、暫く留まっていて・・・。
    また、ニュースなど、なにかのトリガーに触れた時
    ふっと蘇ってくるような気がする。

    ただ心に残るというのとは違う
    この作品から開かれるものの秀逸さに、
    終演後、しばらく言葉がでませんでした。

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    2011/05/30 07:12

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