珍しい凡人 公演情報 箱庭円舞曲「珍しい凡人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    凡人を描くストレートさ
    物語はそれなりに積み上がっていくのですが、
    これまでの作り手の作品と比べて、
    なにかまっすぐに描く力を感じました。

    舞台美術や、物語の設定、
    さらには人間関係には作り手一流のデフォルメがあるのですが、
    そこから浮かび上がってくる人物像は
    どこか直球勝負で貫き通されているような
    印象を受けました。

    ネタバレBOX

    自由席、早い時間に到着したものの
    会場に入って、うろたえ迷って席を決める。

    中央にしっかりとしたセットが組まれ、
    前後に客席が振り分けられている感じ。
    かなり迷った末、
    「珍しい凡人」と書かれた踏み石を渡って
    対岸側の客席へ。
    セットもリビングルームを再現したやや高めの場所と
    家の玄関前の部分に分かれていて。
    結局凡庸に双方のセットがそれぞれに平均に見えそうな
    席を選んで・・・。

    前節を封印した主宰が
    少しだけ照れながらする災害時の対応の説明に
    3月11日から倒れていくのミノの遠く小さな一枚を感じたりして。
    物語が特に地震のことを触れているわけではありません。
    ただ、ストによって少しずつ様々な機能がマヒしている設定などもあって、
    その空気感に、
    どこか観客たちが感じている今と繋がっているものがあって。

    冒頭の母子のシーン、
    どこか甘やかされて育った息子と
    ある意味幸せな距離感で話をする母親に
    ゆったりと取り込まれる。
    そこから、切れをもった物語のピースが着々と並べられて
    舞台上の世界が埋まっていきます。

    その家の夫は二人兄弟の兄、
    高校の教師をしているらしいが
    裁判員に選出されたりもしているらしい。
    一方の弟は芸術関係のNPO法人を立ち上げようとしている。
    兄の義理の妹や同僚、
    同じ裁判を担当する裁判員の女性、
    また、弟側にはNPO化を支援する行政書士や芸術家、
    さらには彼を取り巻く人物たちまでがからんで、
    舞台が広がっていく。

    裁判員裁判の周辺とか、
    NPOやボランティアの問題、
    さらには芸術の評価のされ方など、
    いくつかの背景が物語には織り込まれていて、
    作り手ならではのしたたかな踏みだしを持った切り口に
    観る側の目を見開かせる力がある。
    でも、それらの事象がこの舞台の決め球になっているわけではなく、
    次第に物語が解けていく中で
    どこか奇異にみえる彼らの肌合いの
    なにかから抽出される感じではなく
    とてもナチュラルで実体をしっかりともった質感に
    真っ向から押される。

    これまでに観たこの劇団や作り手の作品には
    舞台から醸し出された常ならぬ色に
    観る側までが染められて消えずに残るような感じがあったのですが
    今回は、そうではなく、
    よしんば、どこかちょっと外れた感覚や歪みがあったとしても
    個々の抱く想いはデフォルメのない
    直球勝負で描かれているような気がして。
    観終わったあと、逃げ場のないような違和感に浸り込むのではなく
    枠の内側に投げ込まれたボールを
    そのままに受け取るような感覚があって。

    ナチュラルな人物表現の中に
    ある種、相容れないような
    でも否定しえないような
    人間の根源的な姿が滲み出てくる過去の作品とは
    なにかベクトルが違った今回の舞台、
    当然に、これまでとはどこか違う印象を持った作品ではありましたが、
    でも、この時期の空気としなやかに融和した
    それゆえにやわらかく深く観る側に
    残る作品だったと思います。



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    2011/05/16 05:08

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