シングルマザーズ 公演情報 ニ兎社「シングルマザーズ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    シングルマザーたちの苦労は分かったが
     『ら抜きの殺意』や『歌わせたい男たち』を満点とするなら、今回の『シングルマザーズ』はせいぜい50点。
     2002年から2年ずつ区切っての4場構成、「ひとりママネット」の活躍を段階的に描いていくのには適切で、ソツがない。しかしそれがどうにも“教科書的”で面白くならない。ドラマが生まれてこない。シングルマザーたちが行政の不備によって苦労を強いられていることは分かる。勉強になるし、テーマそのものは面白い。しかしそれは「題材が面白い」のであって、「演劇としての面白さ」ではない。
     役者たちも、彼女たち自身の設定を説明するのに手一杯で、役者の演技としての面白さを発揮するには至らなかった。それが残念である。

    ネタバレBOX

     タイトル通り、登場人物は一人を除いてみな、立場は違うがシングルマザーたちである。舞台が一室に限定されて、そこでのやり取りで物語を紡いでいくのは永井愛の真骨頂を発揮する最強パターンになるはずだった。
     ところが先述した通り、ドラマがなかなか生まれてこない。一番の原因は、彼女たちはみな「母」であるのに、その対となる「子供」が全く登場しないことだ。場所が母親の仕事場である事務所であるから、子供が登場しないのは当然だ、というのは言い訳にならない。台詞でいくら「しんのすけがどうたら」と説明されても、子どもたちは「ゴドー」ではないのだ。いないことで存在感を観客に感じさせるキャラクターではない。事務所に来ちゃいけないと言われていたのに来てしまった子どもの一人や二人は登場させないと、観ているうちに、この母親たちには本当は子どもなんていないのではないか、けれども子どもがほしくて、子どもがいるふりをしている、そういう「ごっこアソビ」をしている哀れな狂った女たちなのではないか、「あのしんのすけが」「あのしんのすけが」と名前ばかりが連呼されると、だんだんそんな気がしてくるのである。
     黒一点、「夫」の代表である吉田栄作は登場しているだけに、子どもの不在は余計に目立つ。子役を全国ツアーには連れて行けないという事情があったのかもしれないが、それは観客のあずかり知らぬところである。子どもを出せなかった時点で、この戯曲は明らかに失敗したのだと思う。
     俳優たちも、その真価を充分に発揮したとは言えない。もともとの公演は、もっと小さい劇場で行われていたのではないだろうか。まどかぴあの広いステージでは、いきおい全員が声を張り上げざるを得ず、それが演技を不自然なものにしてしまっている。根岸季衣ですら“わざとらしく”見えてしまうのだから、事態は深刻だ。沢口靖子は美しいが、美しさだけで舞台を“持たせる”のはいささか苦しい。何らかの形で、美人役者は“崩す”“癖を付ける”ことをしないと舞台では映えないのだが、それが殆どされないものだから、舞台上の印象は「なんだか小さい人がいるなあ」で終わってしまう。笑いを担当する枝元萌に、完全に食われてしまっている。
     唯一、沢口靖子が輝いたのは、吉田栄作がDV被害者を装うウソを見抜くシークエンスで、そこはまるで『科捜研の女』を彷彿とさせるミステリー的な興味を感じさせていた。そういう“ちょっと変わる”異化作用、緩急のリズムが作られていれば、この戯曲は「シングルマザーの勉強になって面白かった」芝居ではなく、「シングルマザーを扱った面白いドラマ」になっていたと思う。 

    0

    2011/04/24 19:48

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大