黴菌(ばいきん) 公演情報 Bunkamura「黴菌(ばいきん)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    実はちょっとイイ話だった所に注目
    チラシを見ると、怪しげな洋館に女中から奥様までバッタバッタと折り重なって死んでいる。しかも頃はは戦時中。これは生物兵器に感染したグロテスクな家族の肖像なのか…と見せかけておいて、実は苦しい時代を経て再生する人間のちょっとイイ美談だったのでびっくり。

    ネタバレBOX

    終戦直前の疲弊した社会の底に沈殿する裕福そうな大家族。改築・建て増しを重ね迷路のようになった古い洋館が、曰くありげな人々を呑み込むように立っている。主は病で死を待つのみ、その若い妾とその兄、人体実験を繰り返す脳病院院長の長男夫婦、思春期の息子、要人の替え玉をしている売れない作家の次男、男娼の遊び人である4男、なぜか三男はいない。とぼけた女中に、脱走兵とその妻、精神病患者とその友人……おかしな人々が胡散臭く次から次へと登場する。
    何となく重々しい胡乱でミステリアスな空気に、これは最後は皆殺しだな…と思うのですが、ぜんぜんそうじゃなかった。
    大事件が起こるわけでもない。重苦しい戦争が無理に割り込んでくるわけでもない。淡々と個々の抱える問題が次々に提示されるだけなのだが、どういうわけか大変におもしろい。引き込まれる。
    癖のある登場人物1人1人が、とても身近で愛すべき人物に見えてくる。
    まず会話がおしゃれ。一歩引いたようなユーモアにあふれ、笑わせるし、ドキッとさせるし考えさせられる。
    どの人物にもマトモでないところとマトモなところがとてもいいバランスで提示され、彼らが作る人間関係に目が離せない。
    一見まともに見えてまともでない。まともに見えないのに、実はまとも。そんな可笑しさが至る所にちりばめられている。
    五斜池一家の抱える問題は、実はとても普遍的で平凡で時代に関わらず身近なことだ。家族、あるいは夫婦、あるいは友人…人と人が繋がっているからこそ起こる悲劇、喜劇が胸に迫る。
    三男の事故死をきっかけにそれぞれが背負ったトラウマが、ラストに緩やかにほどけていくところは感動的だった。
    要するに「黴菌」はちょっとイイホームドラマなのであるが、それをグロテスクミステリの枠にとてもユニークにはめこんで存分に観客に魅せてくれた。
    気の効いた会話とキャラクターの生き生きとした魅力が、よくあるホンワカホームドラマとは一線を画した面白い演劇だった。
    また、戦争というテーマを軽くエッセンス的に使っているのがいい。反戦精神などをちっとも盛り込もうとしていない所が、逆に戦争が落とした影の大きさを感じさせ、作品の強いアクセントとなって心に残った。
    また、閉塞した密室群像の中で、空気の読めない太った女中や渋澤兄妹の憎めない自由さが印象的だった。
    平凡なテーマの中にこそ光る、おもしろい脚本、おもしろい演出というものを存分に見せてもらった。

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    2011/04/23 13:23

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