ヴェニスの商人 公演情報 劇団AUN「ヴェニスの商人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    シェイクスピア好きなら見ておくべき
    これだけハイレベルなシェイクスピア演劇が、小さい劇場でたっぷり観賞できたことに感謝したい。

    ネタバレBOX

    スタイリッシュなセットがやや意外。ヴェニスらしさを感じさせるものは少ないが、十分にその世界観を堪能し得る、黒白のコントラストの美しいセットだった。
    衣装もまた、キリスト教徒=白、ユダヤ教徒=黒で統一され、白黒、善悪が時に反転していく様が、視覚にも感覚にも心地よい。また、シャイロックの上に降り続ける雨も意味深だった。
    冒頭、アントーニオの歌から始まることに驚かされた。親友(愛人?)バサーニオを思うこの歌は、金持ちの女相続人ポーシャの箱選びの時にも歌われ、バサーニオが真実の価値を見出す時の手助けにもなる仕組みだ。このくだりは実によく練られた素晴らしい演出だった。
    軽快で明るく楽しいキリスト教徒たちのスラップスティックの裏に、シャイロックの内包するユダヤ人差別の実態がしっかりとした重低音を奏で、観客の心を不安にさせる。
    今ここで行われていることは、本当に正義なのか。この幸せの裏に、犠牲になっているものは何なのか。正義とはなにか。真実とは何か。そう問いたださずにはいられない重厚な作品に仕上がっていた。
    吉田鋼太郎のシャイロックは実に心を打つ。「ユダヤ人には目がないか、手がないか…」の台詞は素晴らしかった。裁判のシーンも圧巻。一瞬にして歓喜から地獄へと突き落とされるシャイロックの表情の変化、怒り、絶望、放心…細かい演技に釘づけになる。
    あまりに重い、その壮絶なシャイロックの戦いと末路の後は、指輪にまつわる楽しいやりとりで観客の心を落ち着かせてくれた。
    物事や人間のいい面と悪い面、両方を公正に書き記すシャイクスピアのおもしろさを感じる。
    軽薄な遊び人としてのバッサーニオの造詣、それを母のように愛する、一人だけ結婚しない人物アントーニオ、父親の支配から逃れたいポーシャとジェシカ。彼らの描写も陰影が深く、座長に負けないオーラを放っていたと思う。アントーニオとポーシャの、最初から勝敗の決まっている勝負も見どころだ。
    客演の横田栄治のグランシアーノーも、陽気な明るさで暗くなりがちな空気を笑いに転じていた。
    ラスト、改宗させられたことを示す真っ白な衣装に身を包んだシャイロックと、一人ポツンと立ち尽くすアントーニオが一瞬目を合わせ、暗転。何も得られないどころか大きなマイナスを背負った二人の、みじめでやるせない姿が実に印象深い。
    喜劇と悲劇のバランスがいいと同時に、アントーニオ、ポーシャ、シャイロックのバランスのよさにも注目したい、秀逸な作品であった。

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    2011/04/22 17:31

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