よこはま
観劇から、一週間が経った。
浮かされるような日々も過ぎ、ようやく、ことばに纏めることができそうなので、ここに綴りたいと、思う。
ネタバレBOX
劇場に足を踏み入れた瞬間、夢のような舞台美術に心を奪われ、息をするのも忘れ灯籠を眺めていた。
あの現実離れした空間、何処よりも淀んだ空気が溜まる場であるはずなのに、汚れをなくした空間だったからこそ、猫のナナシの目で眺めた世界、「無名性」が表現されていたのではないか、と思う。
冒頭で、眠るようにノアが息をひきとってからの鮮やかな場面の転換、「わたしは、今夜、死にました」ではじまる猫のあいした街、横浜を描写することば。ふいに訪れる夜、ひるがえるスカートの色彩、音楽。
あの美しさを、ことばであらわしたいのに、うまくあらわすことができない。
わたしは。横浜を、知らない。
そこで吹く風も、
異人街も、煉瓦の道も、さびれた裏通りも、白い十字架が並ぶ丘も、街にこびりつく哀しさも、なにも。
それどころか、なにもかもが揃った世界に生まれてきたわたしは。
肌に刻みこまれた記憶として、戦争を、もたない。
けれどなぜだか。劇で描かれた風景を、ひどく懐かしい、と。夕暮れ時にマリアが歌うのを、とおい昔にこの目でみた、そんな気がした。
横浜、と次に耳にする事があったらわたしはきっと。
中華街ではなく、港でもなく、この作品を思い出す。そんな気がする。
素敵な作品を、ありがとう。