雨模様が投票した舞台芸術アワード!

2020年度 1-10位と総評
社会の柱

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社会の柱

新国立劇場演劇研修所

今月イプセン2作品目。めったに上演されることのない『社会の柱』が新訳で観られて幸せでした。
船工場を営み、領事として尊敬される男が、米国から帰国した元友人で妻の弟に若い頃の悪事をばらされそうになるものの、米国の船主から修理を急かされたため修理したかのように表面的に繕っただけのインディアンガール号にたまたま乗って米国に戻って事業を整理してこようとしたのを幸いに、元友人が死んでもよいと思い出航許可を出したところ、自分の息子がおじさんに憧れ密航しようと同号に乗ったこと、元友人は別の頑丈な船に乗ったことを知り、鉄道開発を前に土地を買占めたのも息子に資産を残すためだったのにと、船工場の信用も含め全てを失ったことに絶望するというところで、急遽一転。工場長が独自の判断で出航を差し止め、妻が隠れていた息子を探し出していたことから、男は市民の前で過去の過ちと私欲のために土地を買い占めたことを謝罪し、その上で土地売却事業を株券にして希望する市民に交付し、利益を分かち合おうと提案したのでした。

超リアル、今日的な話でした。

技術者が反対したのに上層部が発射させ、その直後に爆発したチャレンジャー号の事故を想起しました。舞台は140年前のノルウェーですが、現在と変わらない経済活動をし、職業倫理を問う話でした。領事の命令に反し、技術者倫理を貫いた工場長を尊敬します。新型コロナウイルスの検査を求める医療現場からの要望に対し厚労省の指針に縛られ過ぎて検査を認めない保健所も、緊急性の高い患者のために少し拡大解釈するくらいの判断ができないものかと思います。

ラストを大団円にしたのは意外でした。絶望で終わっても良かったと思いますが、イプセンもそんなことは百も承知だったと思います。株券の発行という経済活動を啓蒙するため、また1877年当時としては道徳的に改心する姿を見せることが必要だったのかなとも思いました。

因みに、社会の柱とは、元友人と一緒に帰ってきた妻の異父姉のセリフによると、真実と自由とのことでした。

ゆうめいの座標軸

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ゆうめいの座標軸

ゆうめい

『俺』観劇
子供の頃に6歳上の兄にプロレス技で痛めつけられたこと、漫画オタクの友達がいたこと、そのうちの150cmの男は自殺したこと等々、ネットで知り合った男の経験、即ち『弟兄』に通じる経験を、演者がスマホ、タブレット、プロジェクター等の機器を駆使してネット環境を利用して、そして身体を思いっ切り使って演じるも、男からネット上の色々な情報を取り込んだものだと言われ、ちょっとへこむという一人による芝居。

ばたばたしているだけで全く好みではありませんでした。

自分の経験を演劇化する手法を学び『弟兄』を作ったものと思っていたので、先日は猛烈に感動したのですが、今回真偽の程は定かでないと言われたことで、そういえば虐めた側は覚えていないなんて話もありきたりだし、何か全てが適当な作り話のように思えてきてがっかりしてしまいました。

あの感動を返せ!って言いたくなりましたが、でも、そういうことも含めて演劇なんですね。

シャンドレ

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シャンドレ

小松台東

狭い地方都市の縮図のようでした。素晴らしかったです!!
スナックシャンドレに通う電設工事会社社員を中心に、狭い地方都市における人間関係の煩わしさから逃れられない人々を描いた話。

卒業すればいじめっ子から離れることができるとか、大きな会社であれば嫌な上司もそのうち転勤するからとか言われて人間関係の煩わしさを我慢することがありますが、小さな社会では一度関りを持ってしまった面倒臭い人と一生付き合っていかなければならない恐怖感をひしひしと感じました。

都会に出る気持ちが分かります。

部長さん役の役者さんの飄々とした演技は素晴らしかったです。いざとなったら役場の人間から入札価格を聞き出すぐらいはお手の物という雰囲気でした。

往転

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往転

KAKUTA

展開が素晴らしかったです!!
福島の桃が風評被害で売れなかった頃、横転した深夜バスに居合わせた乗客たちの生き様、本性が、明らかになっていく話。

観る前は行方不明になった二人の、逃げなければならなかった要因に関心がありましたが、むしろ死傷した人たちや、事故とは関係なく自殺未遂で入院していた若い女性の方の、舞台上で目に見えていたこととは全く異なる真実が見えてくる展開が面白く、どんどんのめり込んでいきました。

先ず若い女性の方が睡眠障害だったことにガツンとやられました。そして備忘録的に、死んだ男は幼馴染の看護師にストーカー行為をしていたこと、おばちゃんは息子のところにたかりに行っていたこと、運転手は居眠り運転によって事故を起こしたことで逃走したこと、寝たきりの入院患者が運転手だったかどうかは判然としなかったものの警察の監視下のもと転院したこと、死んだ女の連れの男は、女が奥さんのもとに帰そうとしてインターチェンジで降ろしたこと云々。

ロケットペンシル×ドレッドノート

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ロケットペンシル×ドレッドノート

やみ・あがりシアター

素晴らしかったです!!!
宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999、11人いる、はたまたコナンやサザエさんまでパクったアニメ番組の毎週の放映内容に、そのアニメにハマったオタク男女の現実生活を絡めながら進行しつつ、彼女の母親が自転車に轢き逃げされて死んだ事件の犯人がその男だと知ることになり、仇を討ちに行くも、砂嵐と称された雑音源を破壊しにイスカンダルに出向いた宇宙戦艦の生き残りが、むしろイスカンダルに安住の地を求めようとしたかのように、男を殺しきれないちょっと切ない話。

衣装もいい、動きもいい、お色気もある、アニメと現実の切り替えが素晴らしい、役者がいい、最高に素晴らしかったです。

二人はこの後どうしたら正解なのでしょうか、考えさせられます。

阿呆浪士

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阿呆浪士

パルコ・プロデュース

目頭が熱くなりました。
ひょんなことから赤穂の浪士を騙った魚売りの八が、血気盛んな大石の娘すずの脅迫的言動や武士道の理想を求める元禄時代の庶民感情の大きなうねりの影響を受け、流れに逆らえず討入り決断に至るとともに、友人としての浅野内匠頭を想う当初討入りに消極的だった大石をも巻き込み、赤穂浪士と寄せ集め集団が一致団結して本懐を果たすという話。

身分階級制度が存続するには、上位階級の人たちは高潔であって尊敬される存在でなければなりません。本事件によって怖いだけの武士階級が一目置かれたわけですが、町人のノリのおかげでした。

落ちぶれた女郎が浅野内匠頭の人間性を語るシーンや、花魁との駆け落ちで討入りに参加しなかった貞四郎が自害するシーンなど、殊の外感動しました。

凛とした大石すず役の伊藤純奈さんが素敵でした。大石内蔵助役の小倉久寛さんも良かったです。

ナイロンのライオン

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ナイロンのライオン

文化庁・日本劇団協議会

【令和キャスト】観劇
ボディラインを整えることに主眼を置いたワコールの塚本幸一社長と考えを異にして、女性を生き生き明るくさせるための下着を作り続けた鴨居羊子の肝っ玉で時に孤独な生涯を描いた話。

生涯を時系列に描くと説明的でつまらなくなりますが、本作品はワンシーンワンシーンが生き生きと描かれ、ワクワクし全く飽きることがありませんでした。

そして何より、地味めな新聞記者から豪放磊落な鴨居羊子を演じ分けた高畑こと美さんの演技が光っていました。素晴らしかったです。

弟よりも才能があったのに、男尊女卑的、封建的家族制度の犠牲になって、弟を立てるために絵画の道を諦めたと鴨居を描いていましたが、高畑さんは弟のことなど気にせず、以前からのように頑張ってほしいと思います。

罪と愛

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罪と愛

小田尚稔の演劇

『罪と罰』の世界観が良く分かりました。
ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公を、コロナ禍の中でもがく劇団の主宰者に置き換えて描くと、老婆を殺すに至る過程、世界観が良く分かるという現代版『罪と罰』。

大家に対する家賃滞納者の気持ちなど本当に共感します。素晴らしかったです。

グロリア

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グロリア

ワンツーワークス

これは先ず観てもらうしかありません。
出版社内で小馬鹿にされ仲間外れにされたグロリアが疎外感を強く認識し、職場で同僚を射殺して自殺するという事件が発生。その後、関係者が続々と事件に絡んだ本を出版したという話。

落ちこぼれ社員たちのウダウダした勤務の様子が続く中、突然状況を一変させるピストルの音と光には驚かされました。どこからか、ああびっくりしたという声が聞こえて来た程でした。

そして、出版社というのがミソでした。落ちこぼれとは言え、皆それなりに一応の文才があるのが災いしました。もし普通の会社なら、マスコミのインタビューを受けてそれまでなのに、彼らは図々しくも事件本を各自出版したのでした。面の皮が厚くて、なおかつ面の皮の厚いことを全く認識していない彼らの愚かさを感じ取りました。

雉はじめて鳴く

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雉はじめて鳴く

劇団俳優座

爽快にやられました。
雉はケーンと鳴きますが、雉が初めて鳴く、即ちケンは主張できるくらい大人になったってわけで、雉も鳴かずば撃たれまいなのですが、鳴いたことによって周囲が反応して助けてくれて無事高校生活を続けることができましたという話。

そして、後ろに出てくる男女は父親とその母(ケンの祖母)だとばかり思っていたら、30年後のケンと避難所として守ってくれた担任の女先生だったということが分かってやられたなと思いました。

ただ、内容の割には舞台が広すぎて横スクロールが目立ち、立体感がありませんでした。また、若い人のお芝居に慣れたせいか、全く若さが感じられませんでした。

総評

2位のゆうめい「ゆうめいの座標軸」のコメント欄には『俺』に関するコメントが記載されていますが、あくまでも良かったのは『弟兄』でしたので、念のため申し添えておきます。

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