しんのすけの観てきた!クチコミ一覧

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海ノ底カラ星ヲ見上ゲヨ

海ノ底カラ星ヲ見上ゲヨ

おぼんろ

サンモールスタジオ(東京都)

2009/12/17 (木) ~ 2009/12/27 (日)公演終了

満足度★★

着想は優れているのに活かせていない勿体無さ
タイトルにも書いたとおり、浦島太郎の物語に死神を登場させ、乙姫と太郎の悲恋、
死神の孤独を描こうというアイデアは非常に美しく優れているし、過去と現在、妄想と現実、海の底と陸の上を錯綜させていく手法は面白いと思う。しかし、「親から愛されなかった医者」や「自殺願望を持つ女子高生」、「怪物化した母親」など、あまりに多くの要素が詰め込まれすぎた状態での「錯綜」であったため、観客としては、次から次に与えられる情報の中から、物語の本筋に必要なものを選別するのに追われているうちに、とうとう登場人物への感情移入もかなわず、どのエピソードも堪能できずに終わってしまった(プロローグであれだけフィーチャーされていた死神についてもちゃんと物語が締めくくられていなかったのが何より残念)というのが正直な感想だ。聞けば、学生演劇ではなくプロ志向の社会人集団とのこと。であれば、役者のレベルの格差も含め、チケットを売ってお金を受け取るという形式でこの完成度というのは、胸を張れる状況ではないかもしれない。前作「鬼桃伝」の際にも同様のことを述べさせて頂いたと記憶しているが・・・。

ネタバレBOX

どんな作品でも、観客に間違いなく伝わるようにくっきりと色分けして表現しなければ、作品そのものの価値がまったく損なわれてしまう重要なファクターがあると思う。必要な情報と、必ずしもそうでない情報を選り分けるのは観客ではなく作り手の義務であろうし、コメディやミュージカル、今回の「錯綜」などの「演出」や「劇団のカラー」等以前の問題ではないだろうか。
この作品で言えば、①死神が胸につけた百合が、初めて出逢った時に少女からもらったものであること②海の底の住人が全て死体であること、この2点の表現がもっと明確であったなら、自らの声と引き換えにしてでも少女を側においておきたかった死神の孤独と、結果的に自らの手で怪物化させてしまった少女に恨まれるという絶望的な哀しさ、幸せを夢見て海の底へついてきたのに、実際には「民」とは名ばかりの死体(しかも彼らは乙姫を憎んで襲い掛かってくる)に囲まれたおぞましい生活から抜け出せない乙姫の怒りと絶望と、永遠に死ねない恐怖(亀のミケランジェロの笑顔に隠された強さと優しさ、後半の「恋バナはミケランジェロにしかしない!」のセリフの哀しさがどれだけ際立ったものになったことか)、つまりこの物語の持つ美しい悲劇性が、はっきりと観客に伝わっていたのでは?その上で、太郎との悲恋が描かれたのであれば、観客は思う存分これらの登場人物に感情移入ができたであろうし、後半の「錯綜」部分においても軸がぶれることなくストーリーが完結したのではないだろうか。前作の時にも感じたことだが、脚本の末原氏の、もとからある民話をモチーフに物語を作り出すアイデア自体には光るものを感じるのだが、同時に「やりたいこと」が多すぎるうえに登場人物も多すぎてけっきょく全てが埋没し、かつストーリーの構成そのものも散漫になってしまうという傾向が顕著で、あまりにも勿体無いと思うのだ。母親の怪物化(龍の子太郎へのオマージュだろうか)や、トラウマを持つ老人ホーム勤務の医師は確かにモチーフとして面白いが、それはまた別の作品で取り上げれば良いのではないか?ラストの、自殺願望を持つ女子高生の背後に佇む死神の構図も確かに秀逸で、彼女の今後の運命を示唆するかのようなラストには含みもあるけれど、これもまた、孤独な死神と死にたい少女の物語として、一本の作品として独立させれば良かったのではないか?まだまだ若手の集団のようだし、せっかくの優れたアイデアをひとつの作品にてんこ盛りにしてしまわず、ぜひひとつひとつ大切な主題として扱って多くの良い作品を生み出してほしいと思うのだ。結局のところ、2時間前後、しかも演劇というライブな状況において、観客が受け取れる情報には限界があるのだということを念頭に置くべきだろう。
以上、私見を長々と述べさせていただきましたが、参考にしていただけることがあれば幸いです。応援していますので、頑張って下さい。
鬼桃伝  -oni-momo-den-

鬼桃伝 -oni-momo-den-

おぼんろ

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2009/04/09 (木) ~ 2009/04/12 (日)公演終了

満足度★★★★

より一層のスキルアップを図って欲しい期待の集団
演劇好きの友人に誘われて初のおぼんろ観劇。チラシの意見募集を見て投稿することにしました。
鬼になってしまった桃太郎と、彼(彼女?)を一途に想い続ける犬という斬新な設定といい、メインの役者陣の魅力ある演技といい、光るものを感じさせる舞台だった。若い頃の美しい桃太郎と可愛らしい犬・猿・雉と、鬼になってからの桃太郎や中年になってしまった3匹の演技のギャップも素晴らしかった。「鬼に変わり果てた」という設定を聞くと、何かしら邪悪な物に変貌してしまった存在を想像しがちだけれど、ここで描かれるのは、年老いて痴呆症になってしまったような桃太郎で、それが中年ズタボロの、例えば大好きだったおじいちゃんおばあちゃんがアルツハイマーで自分を忘れてしまったような、そんなやるせなさや哀しさを引き立てている。映像や段ボールを使った演出にも目を奪われた。ただ、滑舌が悪いのか音響の問題なのか、聞き取れない台詞が多くて、話の展開にいまひとつついて行けなかったのが残念だった。凝ったストーリーだけに、観客にとって「観やすい」エンターテイメントを作り上げる努力をしてほしいと思った。

ネタバレBOX

もうひとつ、脚本の問題だと思うが、あまりに沢山の要素を詰め込みすぎて、どのエピソードがメインなのかがぼやけてしまっていて(ズタボロの桃太郎への一途な愛情や桃太郎が鬼になってしまった理由など)、終わったあとに今ひとつ感動が残らなかったように思う。過去の自分と戦ったり、ダイナマイトを巻いて突撃するシーンなどは蛇足なのでは?個人的には、ゴンベイと田吾作の2人の抑えた演技と佇まいが美しくて目が離せなかったのだが、この2人の恋のエピソードは劇中で起こる全ての悲劇の元凶なのであり、もっとフィーチャーして描かれていれば、作品としても格があがるし、何よりも観客としてはストーリーそのものを理解しやすかったように思う。
長々と書いてしまいましたが、底力を感じさせる劇団であり、きっとまた観に行くと思います。

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