満足度★★★★★
公演3日前阿佐ヶ谷ビール工房でスタッフの方から情報を頂きさっそく見てきましたが、良い意味で期待を裏切る名演でした。
ネタバレBOX
まず、客席から舞台を見下ろすザムザの構造が舞台設定にマッチしており臨場感がありました。
音響は若干うるさく感じることもありましたがBGMは特に違和感なく受け入れられましたし、砂の崩れる音、砂を搔き出す音が無機質さを不気味に印象付けて
おり効果的でした。
個人的には「女」も無機質な世界寄りの中間存在ととらえていましたが、その先入観は一瞬で吹き飛ばされました。自分とは方向性が違いますが十分ありうる解釈だと思います。
高野さんの演技は鬼気迫る程に濃厚で生々しく、十分な説得力と迫力もあるので、なるほど、と納得させられました。
逆に高野さんがここまでやったからこそ結果的に鋼島さんの一人芝居にならず絶妙な演出ができたかもしれません。
知力と体力の限りに脱出を試みる「男」の努力、混乱、焦燥、狂気、疲労感、惰性、諦観といった「生」の現実を、必死過ぎるがあまりに第三者からは滑稽に見えてしまうレベルまでしっかり表現されており見応えがありました。
無機質な世界・生活の象徴である砂から「潤い」の象徴である水が湧いたのは重要なファクターかと思いますが、そこからエンディングに繋がる線は若干ぼやけた印象があります。
また、元の生活に帰ろうともがく一方で、元の生活も無機質のなかに埋没しており、そこから抜け出すロマンを夢見ていた事実に対する気づきももうすこし欲しかった気がします。
細かいところでは、ライターで簡単にタバコに火がついてしまったのはのは若干意外に思いました。
世界観に対する踏み込みが若干甘い代わりに人間性に関する表現が濃厚になり、最後まで楽しむことができました。
原作を知らない方には若干説明不足と思われる箇所がありましたが、1時間半の公演時間ではやむを得ないでしょう。
せめて2時間あれば、とも思いますが、濃厚さを優先するならばこれで完成とするのが正解かもしれません。
時代考証と部落の社会問題性といった仔細についてはあえて軽く流したようですが妥当な判断だと思います。
個人的にこだわりたい部分はありましたが、概ね原作を尊重しており、見事な表現だったと思います。