満足度★★★★
不思議な疚しさを感じさせられちゃいました……
他の方に観ていただいて、どう感じたかをお聞きしてみたい非常に印象的な作品です。
是非、公演をご覧いただいてから、私の思いが見当違いなものかどうかご指摘いただきたいなぁ。
ちゃんと理解できているか分からない、でも、何か言いたくて仕方なくなる作品です。
タイトルの説明が次のようにありました。
「逆(さか)しら」とは、逆柱(さかばしら)のこと。
逆柱は日光東照宮の陽明門にある12本の柱の一つで、この一つだけ模様が逆さに立てられている。
これは、完全につくった途端、崩壊が始まるということから、一本だけわざと逆さにし、
この建築物は完璧でないので崩壊せず、未来永劫残るという願いが込められている。
一方で「逆柱」という妖怪の話もある。逆さに立てられた柱が夜泣くという。
未来永劫の為に犠牲となって泣いている柱。
それは、自然の中で不自然に生きている人間のようで、そういう逆柱の説を織り交ぜた物語。
この意味深いタイトル……素敵ですよね。
藤井さんの脚本は、お勉強会や劇王で何度かみせていただきましたが、文学作品のような美しいト書きで、逆に、脚本を越える演出、いや、脚本通りの演出さえ無理なのではないか!?といつも感じていました。
が……すごい!
実際の舞台も、きっと脚本通り(この作品については脚本は読んでいませんが)美しい、深い舞台でした。
幻惑するような照明の点滅や意味深な言葉のやりとりで……正しく理解できているのだろうか……と不安にされますが、確かに自分が感じたことのある思いや衝動の断片がそこにありました。
でも、心をざわつかせると言う意味では、本当に見事に成功した作品で……学ぶことが多々ありました。
ネタバレBOX
宙づりになった長いテーブル その模様は割れたガラスのよう……
そのテーブルは、ベッドにもなり、透けていて、上下で演技がなされます。
テーブルをつる細い金属のポール
ポールの間を張り巡らされたワイヤー
少し離れたところにただおり来ているポールには、螺旋のワイヤーが巻き付いていて、照明があたったときだけ照らされて意味深です。
一人の男を巡る女二人のやりとりで展開していくのですが……
そこに、空気を読めない不器用な弟が登場することで、二人の会話をより拗らせていきます。
中心にいる男は、二人を同じように愛していると言いつつ、誰も愛していないと女に問いつめられます。
まるで光源氏のように、かつて自分を育ててくれた女性、もう亡くなってしまったその女性の面影を追っていて!? いや、その最期と喪失に呆けてしまってるかのよう……
ちゃんと理解できているか自信がないのですが……とても動物的な最期のことを思わされるラストだった気がしました。
一人の人を独占したいという思いは、私はとうに無くしてしまった気がします。
なんでだろう?
おそらく、子どもを持ってからかなぁ。
どんなことがあってもひたむきに母親を求めてくれる子どもの存在が、愛されている感を味わわせてくれるおかげで、誰かの愛を確信したい欲求がなくなってしまった気がします。
どちらかというと、二人の女性を同じように愛しているとあっさり言ってしまう男に共感してしまいました。
「みんなを同じように愛している。それじゃあダメ?」って感じ。
「それじゃあ、なんでダメなんだろう?」って本当に思いました。
でも、20代の嫉妬深かった私は確かに鮮明に記憶にあるから……不思議。
先日、武田鉄矢の今朝の三枚おろしってラジオ番組で、武田さんが、何でも性的なものに結びつけてしまうフロイト心理学は年を取るともうきつくて、アドラー心理学がちょうどいいって言ってたけど、そんな感じです。
藤井さんの脚本は、私にはフロイト心理学な感じです。
思慮深い藤井さんの心の中には、こんなにも熱くどろどろしたものが巡っているのかと思うと、ちょっぴり怖いような、観てはならぬものを観てしまったような疚しい思いに駆られます。
でも、心をざわつかせると言う意味では、本当に見事に成功した作品で……学ぶことが多々ありました。