タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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ホノベ分校

ホノベ分校

劇団芝居屋

中野スタジオあくとれ(東京都)

2026/10/06 (火) ~ 2026/10/11 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

フライヤーや劇中台詞にもある「人は年齢と環境で 変わっていくものだよ」という言葉が心に沁みる。タイトルにある「ホノベ分校」が廃校になってから約10年。そして今また分校卒業生のたまり場であった民宿「田野倉」が閉店する。それを機に同窓会を開くことにし、集まった人々の想いを丁寧に汲み取っていく。何となくドキュメンタリー映画のワンシーンを見ているような感じ。

劇団芝居屋の物語は 日常にある一コマを切り取ったような内容で、誰もが感じ入るもの。等身大の人物がそこに居て、その人の人生を覗き見るようなリアリティー。だからこそ 自分に重ね合わせ心を通わせるような感覚になる。

少しネタバレするが、舞台は過疎化が進んだ海辺の町-台詞から沖縄を連想させるよう。集まったのは3期生から58期生(漁師)という世代の違い、分校で同じ時間を共有していないことから まず自己紹介から始める。話の中で町というコミュニティで何らかの繋がりが分かり親近感を覚える。そこに人と向き合う時間が自然と生まれる、そんな滋味溢れる物語。
(上演時間1時間35分 休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は中央に黒板、上手に平台が何枚か積み重ね、下手は教室の出入口の(磨りガラス)戸という簡素なもの。舞台転換もなく 平台に座ることぐらい。逆に言えば、役者の演技力が問われるようなセットと言える。勿論 役者陣の演技は確かで 実に自然体だ。

分校は 58期生までの卒業生を送り出し10年前に廃校した。集まった同窓生は9人、その多くは小野塚公康の教えを受けた。実は 彼もこの分校の卒業生(3期生)であったが、そのことは公表していなかった。彼が赴任したころは荒んでおり、まず学業に力を入れる必要があった。その(侮られない)ため卒業生ということを隠す必要があった。以来58期生までの担任教師。若い頃はちょっと怖く威厳もあったようだが、歳とともに好々爺、そこに冒頭の言葉。

物語は数十年ぶりに会う先輩/後輩がいれば、同じ時間を共有しない1人生徒など、分校ならではの様々な生活を嬉々として懐かしむ。芝居屋が描く人生模様は人だけではなく、その背景にある地域をも垣間見せる。或る時期から生徒数が激減し、一桁になった。それは「内地へ行く」といった台詞から沖縄返還を連想させる。当日パンフに校歌の歌詞が載っているが、1番から3番までの出だしは「緑ヶ丘」で始まる。丘の上にある校舎、少し不便で外と距離を置いた環境だからこそ育まれることもある。

先輩/後輩といった関係に礼を尽くす、同時に年老いた担任教師や田野倉の女将の介護の世話をするといった年齢や立場を超えた付き合いも見せる。そこに過疎化が進む町で必死に生きる人々の姿を温かく見守るような描き。最後に皆で校歌を合唱するが、1~3番の歌詞に「未来」の文字がある。これから田野倉へ移動し宴会、皆がいなくなった教室の硝子戸に黄昏を思わせる照明。この余韻付けが切なくも優しい心持ちにさせてくれる。
次回公演も楽しみにしております。
探偵かねだはじめたがやすけ十つ墓島殺人事件

探偵かねだはじめたがやすけ十つ墓島殺人事件

映像劇団テンアンツ

小劇場B1(東京都)

2026/10/03 (土) ~ 2026/10/12 (月)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
上演時間3時間、途中休憩15分という長尺だが、体感としては そんなに長く感じない。それだけ面白く飽きさせない魅力がある。タイトルから あの小説(その映画化も含め)を連想させるが、まったく別もの。確かにミステリーではあるが、映像劇団テンアンツ(主宰 上西雄大氏)らしい情感溢れるシーンの数々、それを緩急をつけて展開する。

この劇団の魅力は庶民(もっと言えば弱い者)の観点から描いており、フライヤーや劇中の台詞にもあるが、名探偵かパチモンか という揶揄に対し自分自身(かねだはじめ たがやすけ)はブレず信念を貫く。勿論 有名探偵の名前と事件をパロッていることへの照れであり対抗心もあろう。しかし劇団が一貫して描いているのは優しい眼差しと寄り添う心、そこに上西雄大氏の大きな想いを感じる。例えば前作の「ひとくず」や「ヌーのコインロッカーは使用禁止」等は、その想いに触れて滂沱すること間違いなし。今作も謎解きする過程で その想いを力説する。最大の見どころで圧巻。それまで笑いの連続であったが、この時ばかりはシーンと静まり返った中での熱弁は心に沁みる。

ネタバレBOX

舞台美術は 頻繁にある場面転換に対応するため簡素なもの。その場面を印象付ける小道具や小物で情景や情況を表出する。この場面転換=テンポ良い展開が長尺の物語を飽きさせない。劇団の最大の特長であろう。

物語はフライヤーにあるとおり、孤島・十つ墓島の田派手家の遺産相続をめぐっての猟奇連続殺人事件を探偵かねだはじめ たがやすけ が謎解きをしていく。容易に犯人らしき人物を推理できない、そして犯行動機と心情を巧く絡め怒涛の謎解きが見事。ラスト、立ち会っている刑事たちに放つ言葉---国家は誰のためにあるのか。特務機関といった台詞から戦後 間もなくといった設定のようだが、現代にも通じる金言。犯人を慮ったように 国は(庶)民のためにあると。

本作は劇団員の上西雄大氏、徳竹未夏さん(轟久平蔵という男役)、古川藍さん(探偵助手のはるちゃん)、そして多くの客演を迎えた公演。前説師のホーネット加藤が 会場の一体感を作るよう 座を和ませる(笑い)話。その中で この劇場の楽屋は5~6人用の所に20人ほど入り肩がぶつかりながら といった話があった。そこに出演者の「人間愛溢れる物語」を紡ぎたいといった思いが伝わる。だからこそ観客は 劇団への信頼感と期待感を持つのだろう。
次回公演も楽しみにしております。
裁キノ灯 ~大正裁判の物語~

裁キノ灯 ~大正裁判の物語~

CROWNS

インディペンデントシアターOji(東京都)

2026/09/30 (水) ~ 2026/10/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
個人と国家の間で揺れる当時の司法制度、その法の精神(良心)を遵守しようとする人々の知恵と勇気の物語。

舞台は大正14~15年頃 東京/築地、そこで起こった事件を審理する地方裁判所の裁判官の心情を描いた重厚な公演。関東大震災の傷跡が癒えず、そんな中で成立した治安維持法--軍靴の足音が大きくなるといった不安・不気味な時期を背景にしているところが妙。見応え十分。
(上演時間2時間 休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は上手が階段状、下手は少し高い平台、中央に可動する重厚な置台と箱馬。後景は暗幕で全体的に昏く それによって重厚感を醸し出している。衣裳は洋装と和装、そこに明治・大正そして昭和への過渡期といった空気感が漂うよう。時代の空気をまとった役者陣の圧倒的な存在感や佇まいは、作品全体のリアリティや深い余韻を生み出しており 見事。笑わせるような弛緩する場面はなく強固な脚本であり没入感を誘う演出が巧い。

物語は、大企業 立木商会の倉庫が何者かによって爆破された。数日後 自分が犯人と自首してきた女がいた。彼女は朝鮮人で関東大震災時の流言(デマ)による辛苦という動機、そして治安維持法によって社会主義・共産主義者=危険分子とみなし処刑しようとする。見方を変えれば、特高警察によって国家体制強化の格好の餌食とされる。強大な国家権力に対し、個人としての法曹三者とマスコミの戦い。法的には彼女自身が自供しているという確固たる証拠がある。しかし事実は…。

見どころは、事件の真相を紐解いていく過程だが、法的にどう裁くのかといった懊悩が実によく描かれている。裁判官・検察官・弁護士という三者三様の立場で国家と どう向き合うのか。法は何人に対しても平等で、人種によって差別すべきものではない。物語では法的解釈/運用など理論的なことではなく、あくまで法の精神を前面に出した描き方で、演劇的な面白さを強調する。刑法など 個別の法律ではなく、あくまで(明治)憲法という大きな枠の中で展開していく。そこに時代背景と相まって物語のダイナミックさを感じる。

物語の場面転換を中心に重厚感ある音楽が流れ、照明はスポットライトで特定人物の心情を浮き上がらせるような諧調、時に目つぶし となるような強烈な照射。全体的にテンポよく分かり易い展開が観ていて心地好い。
舞台美術は、上手の階段を庶民の暮らす場所、下手の平台は大企業を思わせる屋敷、その中間に置台を可動させ法廷を表す。労働者・資本家という階層に関係なく法は平等を謳っているようだ。もっと言えば弱き者に寄り添うのが真の法かもしれない。
次回公演も楽しみにしております。
売春捜査官

売春捜査官

チームENNCHi

高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)

2026/09/16 (水) ~ 2026/09/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

高円寺K'sスタジオ11周年企画(チームENNCHiとの提携公演)。
昨年の高円寺K'sスタジオ10周年特別企画の再演で、木村伝兵衛を演じるのは木村夏子さん。脚本は同じでも、演出や役者(演技)が異なると面白さが違って観える。その演技が見どころ。昨年と同様 千穐楽に観劇。彼女を支える男優陣ー日下諭サン、梶原航サン、千葉大和サンーの熱演も良かった。もちろん舞台技術の照明や音楽が実に効果的に使われ、印象深く観(魅)せる。

つかこうへい の思いは、やはり役者の演技力という体現なしでは伝わらない。特に主人公を演じた木村さんの力強く凛とした姿と愛嬌ある仕草、また山口アイ子の切なくも強かな女、その異なる女性像を自在に演じ分ける。
(上演時間1時間35分 休憩なし)【🔫版】

ネタバレBOX

舞台セットは、お馴染みの古びた机、その上に黒電話、捜査資料、そして洋酒瓶が雑然と置かれている。音楽は冒頭の「白鳥の湖」は定番であるが、それ以降の劇中音楽は情景場面に応じて流すが、その選曲が実に良い。

木村さんの伝兵衛は、小柄で華奢な体格に 黒スーツでビシッと決めたスキのない恰好。ただ 自分が観たのが楽日ということもあるのか、声が掠れており聞きにくい。昨年も同様の感想を抱いたが、今回はちょっと違った。聞き取り難いのは前半(劇中でキャスト紹介する迄)で、それ以降も声量等は同じだが、多少聞き取れなくても関係ない。男勝りの気性の荒い女性と細やかな気遣いという印象付けがしっかりと伝わる。また人間と犯罪に向き合う(女性)部長刑事といった情念(芯が強いという内面の激しさ)を感じさせる。まるで木村伝兵衛という役柄が木村夏子という女優に憑依したかのようだ。

在日への人種差別の激白、その故郷を追われた慟哭が胸をしめつける。また伝兵衛の部下 梶ワタルを同性愛者として登場させ、性への偏見差別、職業・職場、さらには社会進出における男女差別、権力至上への揶揄など、色々な問題・課題を浮き彫りにしていく。今では憚られるような差別・卑猥語や隠語で捲し立て、観客によっては嫌悪感を抱くかもしれない台詞をポンポンと発する。一方、人が感じ持つ優しさ、哀しさ、孤独、気概などの人間讃歌とも受け取れるシーンの数々。

熱海の海岸で絞殺された山口アイ子の平凡と思われた事件。その容疑者 大山金太郎を一流の殺人者に仕立て上げることによって、事件の底流にある本質を炙り出す。ラストには 物語の象徴であるアリラン、その花言葉=勇気が前面に出てくる。この硬質で骨太い描きの中に、女性ならではの純粋と羞恥を垣間見せる。この緊張・弛緩のほど良い刺激が物語を飽きさせない。
次回公演も楽しみにしております。
鏡ヶ池操松影―江島屋騒動-

鏡ヶ池操松影―江島屋騒動-

遊戯空間

サブテレニアン(東京都)

2026/09/18 (金) ~ 2026/09/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
三遊亭圓朝作の「鏡ケ池操松影」を「江島屋騒動」を中心に「怪異」の物語を紡ぐ。迫力ある語りによる心情表現、圧倒的な情景描写が 観て/聴いている者の心を捉えて離さない。怪異の世界観であるが、その奥底には人間の欲望やエゴが渦巻いている。それは一面 人の本質であり 生きている限り持つであろう感情、それを十二分に引き出したと言っても過言ではない。

当日パンフによれば「鏡ケ池操松影」は、膨大な登場人物とエピソードが交錯する長編で、公演では「江島屋騒動」を中心にコンパクトにまとめ上げたとある。遊戯空間は、前作「牡丹の花は匂えども」で 三遊亭圓朝の人物像を描いており、今回は彼の創作ものを上演するという妙。勿論 本作は妖話会stage-6として独立しているから、この朗読だけ聴いても十分楽しめる。物語(脚本-構成・演出)の面白さは言うまでもないが、登場人物と情景描写は語り手による表現力、それを生演奏(和楽器)による音楽・音響が効果的に支える。拍子木やツケで場面転換を表す。
見(聴き)応え十分。
(上演時間1時間50分 休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は 入口の反対側に雛壇を設え、横並びに4人。語り手の前に譜面台があり台本を置く。上(右)手から演奏の設楽瞬山サン、加藤翠サン、中村ひろみサン、篠本賢一サン、全員和装である。特に女性2人は 留袖に金帯という祝い事に着るようなもの、それが物語の中で重要な役割(幽霊)を担う母親をイメージさせる。天井からは半透明のビニールの切れ端が垂れ下がっている。
客席はいつも演技をする板上に椅子が置かれ、映画スクリーン(雛壇)を見上げるような感じ。それによって 脇目も振らず集中して聴くことになる。全体的に薄暗く、怪異な雰囲気を漂わすと同時に 語り手へのスポットライトという効果をもたらす。雰囲気作りに このサブテレニアンという会場選定がよかった。なお、語り手は 登場人物の性差に関係なく、場面ごとに交代して朗読する。

倉岡元仲という大悪党と怪異の中心となる江島屋を紐付け、後々 江島屋の養子となる野口安次郎 のち治平の仇討ちといった3つの話を凝縮して構成し直している。中心となる「江島屋騒動」は、江戸にある大店の古着屋が舞台。見た目は綺麗だが「偽物(イカモノ)」と呼ばれるまがい物を売り、暴利を得ている。下総国・大貫村のお里という娘が、名主の倅と婚礼を挙げることになり、この江島屋で着物を購入する。婚礼の当日、その着物が 雨に濡れていたこともあり腰から下が破けてしまう。恥をかいた娘は悲観して身投げしてしまう。その母が江島屋を呪い破滅へ といった物語。

闇と業の深さ そこに人間の心が映し出される。きれいごとだけでは生きられない、逆に言えが欲望とエゴを浮き彫りにすることによって人間の心底が立ち上がる。社会(世間)的に悪と思われていることと 怪異を切り結ぶことによって、現代的で人間の業や社会の闇をあぶり出す物語になっている。そして人が抱える葛藤や願う平穏 それが奇妙なリアリティをもって表出する。そこに舞台ならではの面白さ醍醐味を感じる。

少年の頃、大金を奪われ父をも殺された野口安次郎が倉岡元仲を鏡ケ池の畔で仇討ちすることになるが、元仲の悪行を記した紙を拾い上げるところは唐突で それ以降は急転直下の展開。パンフには3つの因縁が鏡ケ池へ流れ込むように構成したとある。語りに 尺八や能管といった楽器で情景などを効果付けるが、音楽に負けず劣らず声量に力がある。驚き叫びといった語り 同時に顔を歪めたり目を剥く、といった豊かな表情。そこにこの公演の魅力ー圧倒的な没入感ーを感じる。狂気は人の人生を狂わすが、その因果は巡り回ってくる。その戦慄と興奮の坩堝が堪能できる公演。
次回公演も楽しみにしております。
ストレートコメディ「ラン・フォー・ユア・ワイフ」

ストレートコメディ「ラン・フォー・ユア・ワイフ」

ことほぎ堂

中野スタジオあくとれ(東京都)

2026/09/17 (木) ~ 2026/09/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日観劇。
「抱腹絶倒の英国シチュエーションコメディ!」という謳い文句に間違いなし。2人の妻の間で右往左往する男の面白可笑しい騒動を描いた物語。嘘を重ね誤魔化しと勘違いの連続、その発端(原因)となったのが…。タクシードライバーという職業(勤務形態)が肝。序盤を観ていないと どうして二重生活に綻びが生じたのか分からないので ご注意。

劇団ことほぎ堂は 初見だったが、面白戯曲を更に誇張したような演出が好かった。初日にもかかわらず 役者陣はのびのびと演じており、喜劇の面白さを しっかり表現していた。虚誕や空言だらけの話だが、”笑い”という武器を強調した衝撃作 いや笑劇作は大いに楽しめた。

「百聞は一見にしかず」いや「百文は…」、この面白さを文章にしても伝えきれるか?ちょっぴりお色気もあるが、全体的にはアップテンポで怒涛の展開といった印象。物語は 説明にもあるが、二人の妻(メアリーとバーバラ)と二重生活を送るタクシー運転手ジョンが、綿密に組んだスケジュールで行き来しながら甘い生活を送っていた。或る日のトラブルをきっかけに秘密がバレそうになり、嘘に嘘を重ねて大騒動に発展していく。
(上演時間2時間 途中休憩15分)【Aチーム】㊟ネタバレ

ネタバレBOX

舞台美術は色違いのシンメトリー、奥壁に窓/カーテン、中央にソファがあり両サイドに電話や椅子、そして花飾り台。上手/下手の奥と客席寄りに計4か所の出入り口。違いがあるとすればカーテンを開けたときに見える光景。シンメトリーの特徴と効果としては、安定感と安心感:があげられるが、この物語では落ち着きのない不安定な心持になる。演劇的にはシンプルだが 巧い観せ方だと感心。そして 1980年代の英国が舞台、まだ携帯電話が普及しておらず固定電話での会話が妙。

ジョンは2人の妻と結婚し、綿密なスケジュールを立て暮らしている(手帳も自分にしか分らない暗号化?で記入)。時間通りに出かけ 帰ってくる。或る日 ひょんなことから若者に絡まれている婦人を助けたが、その際 夫人の持っていたカバンで殴られ怪我をして病院へ。一晩 病院にいたことから、帰ってこないジョンを心配して2人の妻は警察へ届け出る。台詞から2人の住んでいる所は車で4~5分、しかし管轄警察署が違うことから 2人の刑事が動き出した。

2人の女性と結婚していることを知られたくないジョン、刑事の質問に嘘をついたことが大騒ぎへ発展。メアリーと住んでいるアパートの上階に住んでいるスタンリーを巻き込んで嘘と誤魔化し そして勘違いが重なる。ひっぱたく、殴るといったドタバタシーンがある一方、2人の妻のキャミソール姿(それぞれ赤と黒)が艶めかしい。

最後は噓をつくことに疲れ果て 本当のことを言うが、刑事の1人トラウトン警部が「信じられない」と。何が 真で嘘か判らなくなるといった混乱・混沌とした世界が立ち上がる。まさにスラップスティック・コメディの傑作と言える公演。
次回公演も楽しみにしております。
拝読、致します。

拝読、致します。

演劇企画アクタージュ

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2026/09/09 (水) ~ 2026/09/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

㊗第20回公演、千穐楽観劇。
代読する本の数だけ話があり、それらを引っ括めて大きな物語を紡ぐ。その大きな幹に描かれている内容がミステリー風に展開していく。代読する本は、小説もあればhow-to本もあり一貫性があるのか否かは不明。

代読する本に描かれている内容は、説明にある「僕は殺された」に関連があるような匂わせ方、しかし直接的な繋がり/手掛かりは見い出せない。核心の周りをぐるぐる回るだけ その曖昧さが更に謎めかせている。個々の代読場面と全体を貫く物語の関係というか、絡ませ方が解り難いといった印象。

少しネタバレするが、拝読はそのまま全てを読むのではなく、書かれている内容を要約し説明する。喫茶「雨読堂」の店員 四季楓の拝読は、その的確な内容把握が評判になっている。実は彼、Web小説を配信しており 少しは名が売れている。しかし今は…過去の出来事を巡って物語が錯綜していく。この結末をどう観客が捉えるか、それによって物語全体の解釈が違ってくる と思う。観客に委ねる といったありがちな結末とも違う、そこに曖昧模糊といった もどかしさが残る。
(上演時間1時間40分)【B チーム】

ネタバレBOX

舞台美術は 喫茶「雨読堂」内、上手に出入口、その近くに大きな本棚。下手にカウンターと腰高スツール。客席寄りに机/椅子があり 四季楓が座る。中央に丸テーブルが2つと椅子。今日はイベントがあって その回想のようにして物語は始まる。テンポは良く、演劇企画アクタージュらしさが出ていた。

夜遅く 一人の女性 夏目依子が来て 四季に息子 碧の手帳を読んでほしいと言う。碧は自殺、事件性はないらしい。その彼が幽霊になって「僕は殺された」と言い、犯人を捜してほしいと依頼する。その手掛かりは手帳に書かれていると。現実離れした物語と昼間イベントに参加した常連客の拝読/物語(例えば「骨董」「夕鶴」等)が 虚実のように交差して展開する。単に本筋と脇筋のといった関係ではなく、本筋(幹)に絡みつく無数の枝のような一体感ある構成。幽霊の言い草と拝読本に共通しているのは「嘘」、そこに人の建前をみる。勿論 ここに居る人 すべてに当てはまること。
なお、「幽霊」と「現実」の場面では照明を諧調させているから 混乱することはない。

四季はWeb小説で人を傷つけたことがあった。それから書けなくなり 机には白紙の原稿用紙が隠されている。常連客は皆知っているが、その話題には触れないでいる。

ここからは自分の解釈。
第1は 四季の小説で傷ついたのが碧、何らかの原因で誹謗中傷を受けることになり 思い余って自殺。しかし碧=僕は殺された と思っている。具体的な内容が不明で説得力が弱い。
第2は 夢オチ。ラストは、四季一人 ソファに座っている。色々なジャンルの小説等を読破して といった創作過程のようにも思える。しかし再び母 依子が登場するが、四季の一人シーンとは順序が逆で整合性がとれないような。

どちらにしても 書けなくなった小説家 四季の悔悟と再生物語のように思えた。拝読の数だけ劇中劇的な観せ方、しかも 殺されたという怪しげな背景をちらつかせる。決定的な繋がりは暈し抽象的なレイヤーに思いを託したような印象。
池袋演劇祭の観客は見巧者ばかりではない。その参加作品としては、もう少し分り易く収斂した結末の方がよかったと思うが…。
次回公演も楽しみにしております。
宵ノ奏劇

宵ノ奏劇

NHKエンタープライズ

花園神社(東京都)

2026/09/04 (金) ~ 2026/09/12 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

観たくて早々に申し込んだが 選外、追加募集も選外、諦めていたが当日キャンセル待ちを受け付けるが、必ずしも観劇出来るとは限らないとの連絡あり。何とかキャンセル待ちに滑り込んだ。上演前は霧雨が降っていたが、始まる頃には止んだ。なんとラッキーな。

トライアル公演として無料実施、しかし充実した内容で観て良かった。公演は「宵ノ奏劇~芥川龍之介 童話外伝~」、タイトリからも分かるが生演奏 劇伴(三味線やクラリネット等)があり芥川の「桃太郎」を朗読。それに串田和美氏(構成・演出・出演)は、現代に引き寄せるような串田節を挿入する。朗読の途中で 素に戻って観客に語り掛ける。それに呼応するかのように もう一人の出演者 大空ゆうひ さんも物語から脱線して話し出す。

芥川の「桃太郎」は、日本中の子供のとうに知っている話ではなく、視点を変えることで違った情景や状況が見えてくる。その当たり前に潜む怖ろしさを問うている。そして串田氏は さらに「現代に置き換えた 例え話」を入れて分かり易く聞かせる。この串田/大空の絶妙な掛け合いが見事。
(上演時間1時間)

ネタバレBOX

舞台は新宿・花園神社 神楽殿。三味線とクラリネットの劇伴、串田氏と大空さんが朗々と語りだす。物語は有名な童話「桃太郎」、しかし よく知られた物語ー悪い鬼を退治して凱旋する とは逆の御話。この視点の転換が肝。朗読する2人の衣裳は黒一色、淡い照明の中に浮かび上がる姿は、幽玄の世界にいるよう。かと思えば、近くで車の騒音や境内の本坪鈴を鳴らす音が現実へ引き戻す。夢現の世界に浸っているような不思議な感覚。

物語の途中で 串田氏が気になることがある と言って朗読を中断する。桃太郎を串田流にテキレジしたのだろうか、一方(女性)の言い分だけ聞いていると間違うと。その言葉に大空さんが呼応し宙に片手をあげる。痴漢の手を掴んで糾弾する仕草をする。痴漢行為をしたのか否かは、女性の主張でほぼ決まる。多視点で物事を考えることをしない危うさを示す(概ね痴漢したと思うが)。大空さんは宝塚歌劇団で長年 男役を担っており、男の気持ちも少し解ると。昔話の「桃太郎」を殺すこと それを現代の卑近な例として語り掛ける。桃太郎という英雄譚を風刺・逆手に取った短編物語がよりリアルに伝わる。

今の世の中は情報過多だが、本当に声が届いているのだろうか。チラシにもあるが「SNSで『正義の名を借りた略奪者』が量産され、誰もが『自分は正しい側か?』と疑う空気に中」とあるが、一旦 情報が発信されれば それは一方的なもの。文明の利器は凶器になり狂気を生む。芥川の「桃太郎」は財宝を奪って凱旋したが、必ずしもハッピーエンドではない。負の連鎖、それは紛争・戦争が無くならない世への警鐘だ。
次回公演も楽しみにしております。
世界は想いでできている

世界は想いでできている

劇団Please Mr.Maverick

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2026/09/09 (水) ~ 2026/09/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い!演劇は総合芸術だということを再認識させてくれる公演。
歌って踊ってアクション そして色彩豊かな照明の中で展開する物語は、まさにエンターテインメント(ビジュアルも含め)性に優れ、内容は教訓的である。物語は、共和国と帝国が戦争を繰り返し、その人間の愚かな行為に嫌気がさした妖精(自然の象徴的存在)がその役目を放棄した世界を描く。舞台は 国の違い、性別の違い、健常者と障がい者など、一方 客席を見渡せばヒジャブを被った外国人も多く観劇している。そこに色々な意味で「共生」といった言葉を噛みしめる。

池袋演劇祭参加作品、その公式パンフに「演劇・劇場文化のすそ野を広げるため開催される地域に根差したユニークな演劇祭」とあるが、本公演は地域どころか多くの人たちに観てもらいたい作品。この世界観は、或る有名なアニメ映画を連想する。それは多くの人の共感 そして大きな感動を与えたが、映画と舞台の違いはあっても その「想い」は通底している と思う。
(上演時間2時間5分 休憩なし) 追記予定

ルナナン

ルナナン

はちどり空港

雑遊(東京都)

2026/09/09 (水) ~ 2026/09/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

未見の団体で、どのような劇作なのか興味があった。物語は不可解だが、何となく観入ってしまう公演。時空間を往還し過去(地下)の想いと現代(地上)の思いを重ね合わせたような印象。テーマパークという娯楽施設、昼間は賑やかで楽しいが 夜間は寂しく少し不気味、さらに工事中という未知の条件が加わって不思議な世界観を立ち上げる。

公演の魅力は、テーマパーク(マジカルワンダーランド)の地下にある迷路とその中を(心の)彷徨するといった物理的、精神的な探求をファンタジーに描いているところ。雑遊という小さな劇場は、迷路(心)そのものを表出した感じ。何かがあるのか 埋もれているのか または隠されているのか といった関心を惹く展開。しかし10年前に起こった出来事(宙空が割れて何かが飛散)は何か、天災なのか事故(紛争・戦争だったら意味深い)なのか、または超常現象だったのか。その原因ともいうべきこと---具体的な出来事が解らない。台詞から想像するには難しかった。

奇妙と思われる世界、日常の延長として生きる といった夢想と現実の狭間で足掻いている人を描く。そこに人間のリアルが浮き彫りになる。同時にテーマパークの創設者の娘(姉)と息子(弟)の衣裳がそれぞれ白と黒のスーツで対照的、それは死(鯨幕)をもイメージさせるのだが…。理屈ではなく、整合性やオチといった納得性より不可解な世界観、それを感性で観るといった物語。
(上演時間1時間35分)

ネタバレBOX

舞台美術は、紐簾でその後ろに光幕のような。大きさの違う立方体2つあるだけの ほぼ素舞台。冒頭 テーマパークに来たヒカリにパークのスタッフがアンケートを実施する。ヒカリは友達と来ていたが 今はいない。ヒカリが携行している奇妙な装置が不思議な世界を築いている。途中で「マジカルワンダーランド」の模型を持ち込むが、それがテーマパークの空想イメージを創り出す。

今 テーマパークは施設拡張により莫大な借金、CEO(鷲津サキ)は その打開策として中国資本に売却する計画。一方 弟(鷲津ルカ)は父が創ったパークの売却に反対。2人の確執は経営を巡った骨肉の争い。テーマパークの着ぐるみマスコットが<ルナナン>、それが好きな田辺葵はルナナンの後を追って秘密の扉(13号)の中へ…。時空間が歪んで10年の時を往還、なんとなく足元が揺らぐような不安定・不安感が襲う。

登場人物は8人、それぞれが濃いキャラクターで物語をグイグイ引っ張っていく。葵(小野瑞季サン)は社会的には自己肯定感が低く、他人のことばかり気にする。楽しみはテーマパークでルナナンに会うこと。ヒカリ(桑田佳澄サン)の存在そのものが不思議で地球人なのか宇宙人なのか、生者なのか死者なのか その正体が不明。パークのスタッフ(鈴木美緒サン)は誠実な人柄で時にユーモア。工事を請け負う荷揚げ屋の先輩(松浦慎太郎サン)は、今の仕事に将来性があるのか そして10年後は中央官庁の役人へ。後輩(田中心太サン)は一癖ある人物で、少し非合法的なことに関わっている。そして創業者の娘(石田裕子サン)と息子(高橋拓己サン) そして彼らの部下(近藤利紘サン)で空気の読めない腰巾着的存在。この俳優陣のチームワークが良かった。

先の10年前に起こった出来事が もう少し想像し易ければ大化けしたであろう作品。この世界観の描き方は唯一無二で 大切にしてほしい。
次回公演も楽しみにしております。
ライフ イズ ビューティフル

ライフ イズ ビューティフル

よた

ありかHole(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/07 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

公演は二部構成といった印象、しかし有機的な繋がりか感じられないのが惜しい。キャストは3人で、前半は観念的・抽象的な観せ方で、抑揚をおさえた台詞回し。3人の淡々とした演技、訥々とモノローグで語りかけるといった対位的会話。台詞に音楽が被り聞き取り難いが、敢えて非演劇的な演出にしているのだろうか。そしてキャストの1人 吉田萌乃さんのスロー/パフォーマンスは何を表現(意味)していたのか。

前・後半の転換は 唐突にキャンプ時のような歌や合奏(ランタンを囲んで ギター、マンドリン、トライアングル)が入り、後半は 物語が始まり 和声的会話で紡ぐといった展開。公演は「太宰治の『人間失格』を大胆に換骨奪胎、再構成」して描く とあった。「人間失格」と言うと「道化」という言葉を思い出す。主人公の 他者や世間に馴染めず自分を偽り続けた姿を通して、「人と人との繋がりの難しさ」「生きることの孤独」を描いていたと思う。公演は、どちらかと言えば小市民の平凡でささやかな暮らしの中に幸せがあるような。そこにライフ イズ ビューティフルを感じる。

前半と後半の描き方、その違いを面白いと感じるか否かで評価は違うだろう。その意味では観客を選ぶ公演だと思う。自分は前半が観念的過ぎて、それが冗長に思えたのが勿体なかった。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台美術は床に白線で直線や曲線を描き、それが人生行路のように思えた。敷かれたレールの上を歩むのか、道を外すのか まさにラストシーンにある人生ゲームそのもの。上手は音響・音楽や照明操作といったスタッフブース、後ろの壁に椅子や小物が入った箱。下手に衣裳掛けがあり場面に応じて衣裳替えする。

前半は、後半で紡ぐ3人のそれぞれの心情吐露といった感じだが、その具体的な内容は解らない。人は生きていく中で、知らず知らず或る立場になり演じている、それは本意であろうとなかろうと自分自身に変わりはない。どんな苦悩や葛藤があろうとも生き続けているうちは、道化を演じている といったことを言っているのだろうか?

後半は同棲しているカップル、そして彼女が勤めているショップの店長。店長が彼女に向って 何度か「生きていて楽しい?」と聞く。規則正しく淡々とした暮らし、その刺激が少ない生活に張り合いがあるのか。逆に言えば刺激だらけの生活は、それが当たり前になり刺激とは何ぞや といった哲学問答が繰り返されそう。まだ何も起こらない<何か>に期待して生きている。その繰り返しは、他者に対する恐れと同時に関心であり期待でもある。

劇中で、ダ・ダ・ダと同じ音を繰り返えす、それは軍靴の響きで それが聞こえなくなると…。そこに 自分の内に籠って道化を演じているだけでは、社会(世相)に疎くなり危うくする。物語は日常であり非日常、それを行ったり来たりしながら、人間と社会を切り結んだ世界を垣間見せているようだ。
次回公演も楽しみにしております。
善人の条件

善人の条件

diamond-Z

きゅりあん(品川区立総合区民会館)(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/05 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。本作はジェームス三木氏の映画監督デビュー作であり、舞台も自ら原作・脚本を務めたとある。その作品に挑むのが結成10周年を迎えるdiamond-Z。文学座のシニア世代を対象とした「プラチナクラス」で学んだ仲間達が、演劇を楽しむ場として作ったユニットで、定期的に公演を行っている。

1989年作、主人公はクリーンな民主主義市政を目指し立候補するが、選挙戦を通じて土地柄や習慣などで、だんだん金権選挙戦の渦に巻き込まれていく。その悲哀と狂気を 時にユーモラスに描いた物語。現代の選挙戦ではSNSを駆使し誹謗中傷や流言飛語といった攻防戦が繰り広げられるが、約40年前の作品にもそれを彷彿とさせるようなシーンがある。それでも地盤・看板・カバン(金)といったサンバンは今でも変わらないだろう。改めて観ておきたい作品。
(上演時間1時間50分 休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、始めは 亡くなった市長宅のリビング---中央に応接セット(テーブルとソファ)。次に選挙事務所---上手にミニテーブルと椅子、下手に電話を掛ける運動員のテーブル。どちらも簡素、そして後壁に情景映像を映し出すことによって 奥行空間が生まれる。選挙戦が始まると、観客を有権者に見立て、客席通路を選挙タスキをした立候補者(清川善彦)が手を振りながら歩き回り ときどき握手までする。映像では出来ない臨場感、まさに舞台ならではの演出だろう。

物語は、関東北部にある小都市・日暮市、不動産会社のバックアップで、リゾート開発を目指していた清川市長が 愛人宅で急死。 後援会が後継者選びに苦心する間に、反対派閥の県議が立候補を宣言する。市長派は、市長の娘婿で大学助教授の牧原善彦に白羽の矢を立てた。 理想家肌の善彦は、教育文化都市の構想を説き クリーン選挙を条件として立候補を承諾、名前も清川姓へ改名。ここまでが一幕目。

2幕目は、選挙参謀や後援会が活動を始めると、すべてはカネで動かす。善彦は抵抗するが、金権選挙の風土には勝てず、不本意ながらカネまみれの事前運動に巻き込まれていく。 やがて、善彦の妻(前市長の娘)の不倫を暴く怪文書がばらまかれる。善彦の家庭は破綻寸前、しかし選挙カーの上ではおしどり夫婦を演じなければならない。善彦は身も心もボロボロになって行く。そして投票日前日の演説で、彼が有権者たちに語ったことーこの国に本当の民主主義があるのか。

序盤は演技が少し固いな と思ったが、だんだんと熱を帯び 登場人物のキャラクターになっていく。シニアということもあり、良い意味で登場人物の一癖も二癖もある役が馴染んでいく。そこに このユニットの味わいや強みがあるように思う。「選挙」を通して垣間見る、人間の狂気と金と欲の世界。「選挙」というショービジネスに踊らされた人々の滑稽な姿、それは日本の将来を憂うようでもある。
次回公演も楽しみにしております。
家族…リハーサル

家族…リハーサル

株式会社NLT

ザ・ポケット(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
余命わずかな男 ピエール=アンリは、亡き家族を“演じる”俳優たちを雇い、1週間だけ「理想の家族」を再現しようする。過去に失った家族との関係をやり直すためだが、その設定自体が揺らぐ。何が真で嘘なのか、その虚実が曖昧になっていく。

チラシにフランスで映画化され、その後舞台になった話題作とある。日本でも2025年封切り「レンタル家族」という映画があるが、つながりを演じることで本当の絆が生まれるとー。奇妙で滑稽な表、その裏にある深いヒューマンドラマ、そのアンバランスが妙。それこそが人間の建前と本音、人は何らかを演じて生きているのかも…。

何でそんな芝居をするのか、そこにピエール=アンリの悲哀と後悔が透けて見えてくる。死期が近づくと、嘘でもいいから気になっていたことにカタを付けたい、同時に家族を演じることによって慰みと安らぎを求めているのか。いかに残された時間を生きるか といった前向きの「終活」や「家族の絆」が描かれている。ユーモアとペーソスに溢れた上質な悲喜劇、見応え十分。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台美術は 中央に重厚なテーブルと囲むように椅子。上手に寄木細工模様の壁に窓(回転し 後ろは寝室)。その前にサイドテーブル、上に食器などが置かれている。下手端にベンチ1つ。後ろは飾り木が立っているが、全体的に継ぎ接ぎだらけといった印象、そこに この家族の関係が見えるよう。基本は室内劇であるが、終盤は 客席通路を使い、邸宅外の世界を演出する。キャストの衣裳も明るく、全体的にポップな印象。

登場するのは、ピエール=アンリ 本人(父親)、そして妻、息子とその嫁、娘、自分の姉(子供たちにとっては伯母)そして長年の友人という役の人物。最初は芝居だったが、次第に現実と虚構の境界が曖昧になり、俳優たちは彼の<本当の家族>のように振る舞い始める。俳優にとって役柄になりきることは大切、そして他者が演じている役にも興味を示す というのは性(サガ)だろうか。娘役が兄嫁役と入れ替わり 演じることに酔いしれる。この虚構家族を演出をしているのが 友人役。いわば演出家であり舞台監督という立場にある。

ピエール=アンリの家族は 自分以外は飛行機事故で亡くなったという設定、しかし これも嘘で、実は 彼のことを嫌い家を出て行った。皆 存命で 実の息子が帰ってきた。過去の後悔、隠されていた真実が浮かび上がるが、これもやり直しなのか、それとも新たな欺瞞なのか混乱と錯綜の世界へ。まさか余命わずか というのも嘘なのかという疑心暗鬼が生まれる。虚・実が揺れながら関心を惹き、テンポ良く展開するから観劇体感としてはアッという間、まさにフロー状態だ。

「演じる」ことと「本音」の間で揺れる演技、その虚実綯交ぜの世界観がしっかり立ち上がり、同時に一人取り残された男の孤独と悲哀が浮き彫りになる。佐藤B作さん始め俳優による役柄を演じる役者の芝居、その舞台ならではの醍醐味、大いに楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。
バグる距離感

バグる距離感

友池創作プロジェクト

劇場MOMO(東京都)

2026/09/02 (水) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
「友池創作プロジェクト」の記念すべき第10回本公演。そのうち 自分は7公演を観たが、その中で一番心に残る作品。表現し難い人と人の距離感、それをAIを使って物理的に測るが、人の感情はそんな簡単に推し量れない。公演は、AIでは決して劇作出来ないであろう予測の斜め上をいく面白さ。見えない心の距離感、それを舞台を通して描き出した秀作。

物語は主人公 恭子が子供の頃に受けた心の傷を背景に、人との接し方をAIに相談する(話しかける)ことで安心を求めている。彼女はスタイリストとして働いていたが、父の介護のため 2年ほど無職状態。ブランクを通して人間関係の変化だけではなく、社会との関わり方の違いも巧みに織り込む。

舞台美術はシンプルだが、登場人物が状況に応じて衣裳替えをし 瞬時に情景を立ち上げる。小劇場ならではの至近距離は、キャストの微妙な表情の変化を見逃さないだろう。人との距離感を描いている物語だけに、心の変化をいかに表情に表すか。キャスト1人ひとりが 個性豊かな登場人物の立場や性格等を立ち上げ、その内面(思い)を上手く表現していた。見応え十分。
(上演時間1時間40分)

縁がたけなわ

縁がたけなわ

劇団ヨロタミ

萬劇場(東京都)

2026/09/02 (水) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。劇中歌が何曲かあり、その華やかさから音楽劇のようにも思える。
テーマはチラシの花言葉(ハナミズキ=感謝)、そして隠れテーマは「老い」と「地域コミュニティ」といったことを感じる。物語に前・後半といった明確な区分けはないが、前半はスラップスティック・コメディ、後半は滋味溢れるハートフルドラマといった 笑って泣いてのヨロタミらしい話。表層のドタバタの裏に 誰もが迎える老いと孤独、そして地域活動を絡め人間ドラマを描く。

ヨロタミの特長と言うか魅力は、脚本・演出・演技といった舞台そのものも然ることながら、その場を優しく和ませるような雰囲気が好き。推しの劇団であるから贔屓目かもしれないが、分かり易く楽しく観ることが出来る。演劇 特に小劇場では また観に行きたくなる、その魅力こそが大切。本公演は第38回池袋演劇祭参加作品、その公式パンフには「演劇・劇場文化のすそ野を広げるため開催される地域に根差したユニークな演劇祭」とある。まさに この趣旨にピッタリ。
(上演時間 前説では1時間43分) 【M team】追記予定

舞台「キリシマサトル、青春の蹉跌」

舞台「キリシマサトル、青春の蹉跌」

株式会社GEトラスト

新宿シアタートップス(東京都)

2026/09/02 (水) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
1974年から75年にかけての連続企業爆破事件の犯人の桐島聡の50年に及ぶ逃亡を回想/悔悟、それをドキュメンタリー映画として撮影しているという物語。ノンフィクションとフィクションを綯交ぜにして彼と周りの人々の情況を過去と現代を交差させながら展開していく。撮影過程を通して 映像を残(遺)す意味が浮き彫りになっていく。

今から半世紀も前の事件は、当時の社会状況や世相を知らない若い世代にどう受け入れられるのか。’70年代の若者たちの国家(権力)への不平・不満を爆発させる、そんな滾る思いが描かれている。しかし現代からみれば その行為は非合法極まりないもの。犯人たちの思いが暴走し、当初の意図とはかけ離れた結果になる。その見えざる同調圧力のような恐怖が 今にも通じるようだ。翻って 自分の考えをしっかり持って世の中を見ていないと といった思いを強くした。

桐島聡は北海道出身という設定、大学進学のため上京し何となく「勉強会」へ参加する。そのリーダーは 北海道のアイヌや沖縄における偏見や差別的問題を言葉巧みに訴える。聡の内に燻っていた思いに火が付いた。公演では 桐島が爆破事件に関与し、半世紀後に過去を総括する といった手法で描いている。同時に若者らしい青春-恋愛を織り込み甘酸っぱいシーンもある。

現代の桐島聡(ダンカン サン)が主人公であるが、ドキュメンタリー映画監督のクドウミズカ(有栖川朋花サン)の快演であり怪演が主演を食っているような印象。また聡の母せつ(前園あかりサン)の哀切ある老婆ぶりに驚かされた。キャスト一人ひとりの立場や性格をしっかり立ち上げ 観客を戦慄と興奮へ。まさに正気と狂気は紙一重、見応え十分。
(上演時間1時間50分 休憩なし) 追記予定

おしとおせ!限界ノンカノン

おしとおせ!限界ノンカノン

sitcomLab

吉祥寺シアター(東京都)

2026/08/27 (木) ~ 2026/08/31 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。
物語は説明にある通り、絶大な人気を誇っていた人気漫画家 東雲の創作--そのマンネリ化によって連載が打ち切り。今は最終回のネームを描いているが、或る事情から短時間アトリエから抜け出す。その間に起きるドタバタ劇。アトリエの現実世界とマンガの虚構世界が交錯しながらテンポよく展開していく。

見どころは、勿論 成りすまし(事実)をごまかすための嘘や勘違い そのドタバタの面白さ。同時に虚実の世界観が交錯しているような前後に二画面の舞台を観る奇妙さ。そして漫画「限界ノンカノン」の最終回はどうなる といった結末への関心。まさに「ノンストップアクションファンタジーワンシチュエーションコメディ!」という謳い文句に偽りなし。
(上演時間1時間30分)追記予定

Blue moment 2026

Blue moment 2026

Theater Company 夜明け

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2026/08/27 (木) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
2025年「Blue moment」の再演だが、少し尺が長くなり、その分 エンタメ性の印象が強く感じる。見事なブラッシュアップだと思う。物語の梗概は変わらないが、合奏や合唱そして群舞など魅せるを意識したような演出、それが情況になり情景を描いている。

物語は、1人の男 光(コウ)の人生を、フライヤーにあるバイクのタンデムツーリングに準えて描いたロードムービーならぬドラマ。時代ごとに 光のエピソードを描き、その生き様を時系列の回想録のように展開していく。タイトルにあるBlueが物語の肝。

物語は 「記憶と夢の中」といった台詞から始まる。人生は選択と決断の連続、光は思い立ったら後先考えずに行動する。その結果が良かろうが悪かろうが、その捉え方は本人次第。その時代の心情・心境をテンポよく描き、次の時代へ繋いでいく。2025年版では、光という一役を時代ごとに複数の役者が担い、変わらぬ性格等は一貫しつつ、成長とともに違った面を観せていたが、2026年版では1人(鍛代紘夢サン)が演じ切った。

舞台セットの高低を活かした躍動感、音楽・音響(エキゾーストノート等)や照明の諧調で印象付ける。 何といっても舞台中央の重厚感ある「ロー&ロング」スタイルのバイクが迫力。
ラスト、光の台詞が切なくも 救いになっているような…。今の若者、かつて若者だった人々にカタルシスをもたらすかのような好公演。
(上演時間2時間25分 休憩なし) 【Blue】

ネタバレBOX

舞台美術は、左右から階段状にしたピラミット型で 頂上の下は出ハケの幕。その左右にも小さな幕。中央の出ハケを通ってバイクを出し入れ、左右の小さな幕は家の部屋であり秘密基地的な存在。天井は豆電球で夜空に輝く星。ピラミット型にした高低と、その前(客席寄り)を広いスペースにすることによって、上り下り、駆け回るといった躍動感を出す。それが、人生という旅(バイクが象徴)の疾走感を連想させる。バイクにうつ伏せている中年の男Kと不思議な少年Blueとの会話から始まる。タイトルの「Blue moment 」は夜明け前のわずかな時間だけ訪れる世界で一番最初の美しい瞬間 らしく、抒情的な説明はそのままスタイリッシュな舞台美術にあてはまる。そして そのわずかな時間の物語とも言える。

当日パンフによると、物語は5つの時代「(幼少期~小学生編)(中学生編)(高校生編)(青年編)(夜明け編)」で、具体的な年代(1989年~2026年)まで記している。小学生の時に、光が見つけた父の浮気の証拠によって 両親は離婚。以来 女手一つで育てられた。中学時代は 初恋相手目当てで吹奏楽部へ、高校は 有名進学校へ1年遅れで編入学。高校時代に付き合った彼女(心臓弁膜症を患っている)の家庭は、新興宗教に入信しており、その教条から交際には反対。音大へ入学したが経済的に行き詰まり中退し 演劇活動へ。その活動は紆余曲折を経て、だんだんと軌道に乗り 忙しくなってきた。演劇を通じて知り合った女性と結婚したが…。付き合った女性は、年代順に「春」「冬」「秋」「夏」で四季を表し、人生の彩に準えた様な名前。良し悪しは別にして人生を彩るのは人との縁、それがあってこそ人の世は楽しくもあり悲しくもあり、そして切ない。その心情がしっかり描かれていた。

妻(夏)が、劇団の男(武蔵)と一夜を共にしたことを告白、妊娠したが誰の子か分からないと…。バイクに乗って 暗転後、大きな衝撃音が響く。BlueはKに向かって言う、「お父さん、やり直したい時(代)はある?」の問いに、K=光は「ない」と答える。Blueは夏が身ごもったKの子。後悔のない人生だったのか、強がりなのかは判然としないが。恋に悶える者、自我と孤独な魂を持て余す者の心に響くような。しかし仕事や家庭の問題を すべて自分で抱え込み苦悩している。誰かに助けを求め 任せることも大切。主宰挨拶に「僕自身の人生や記憶を出発点に、フィクションとドキュメンタリーを織り交ぜながら」とあり、自戒を込めたところもあるのだろうか。

轟くような重低音、眩しいライトを照らすバイクに乗って、会うことがなかった父と子が旅する回想は余韻に溢れていた。Blueが 見ることのなかった景色、それを父を通して追体験するようだ。風を感じてのツーリング…そして「風」は時代毎に色々な風が吹き、評判や悪評といった「風評」に変化していく。
舞台技術は、合唱や合奏そして照明はスポットライトの多用で光の心情を強調する。後景は豆電球で夜空に輝く星々を煌めかせる。また群舞の衣裳は、浮遊感ある白い布地に青色、それは疾走するバイクから見える海と波のよう。演劇人の等身大の姿を抒情的に描いた公演。
次回公演も楽しみにしております。
GOOD NEIGHBORS

GOOD NEIGHBORS

ハイワイヤ

OFF・OFFシアター(東京都)

2026/08/19 (水) ~ 2026/08/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
現実にありそうな話から妄想そして狂気へ 、その境界が暈けて曖昧になる。まさに舞台ならではの醍醐味が味わえる作品。また雰囲気の変わり目が自然とわかる演出が妙。昔ながらの自治会(コミュニテイ)は、民意による話し合いのようで、実はそれぞれの立場や思惑が蠢いている。物語は奇声を発する住人の騒音、それをどうするかといった身近な問題から始まる。誰が誰のために といった話し合いと行動が漂流するようで、どこに辿り着くのか混沌とした展開に目が離せない。

少しネタバレするが、冒頭 奇声を発する裏井戸鏡子の憔悴したような表情、主人公 覗見明の妻 万里の能面のような表情、その外見的な姿から不穏な雰囲気を漂わす。また舞台美術は 狭いコミュニティをしっかり作り込んでいる。見応え十分。
(上演時間2時間15分 休憩なし)㊟ネタバレ

ネタバレBOX

舞台美術は各戸が横並び、古びた街灯や看板。下手はカーテンで仕切り覗見家の室内、隅には多くのゴミ袋。雑然としているが、東京の或る街といった情景。覗見明は自治会長(持ち回り)で住民からの苦情に真摯に対応している。目下の課題は 裏井戸鏡子の騒音(奇声)をどうするか から物語は始まる。

明には万里という病身の妻がいる。後々 分かるが末期癌で余命いくばくもなく、自分が死んだ後の明のことを心配している。明は夫として献身的に看病をし、自治会長としての責務も果たそうと頑張っている。そこに精神的な余裕のなさが透けて見えてくる。彼は公務員で、同僚の真摯な仕事(住民対応)振りに感心していた。その住民こそ鏡子で、生活保護の件で無理を求め同僚は疲弊していく。その姿を見ていた明は鏡子へ復讐しようとするが…。鏡子の狂態した踊りは一瞬アングラ劇を見ているような錯覚。

明は 自分が公務員であったことを独白する場面では、一歩 立ち位置を変え客観的に話し出す。また万里(介護)を背負いベットに寝かせる、鏡子(苦情)を背負い舞台を回っている姿は日常的に追い詰められていく様子。冗長かと思われる場面に明の精神的な疲弊を描く。それは姿なき恐怖、鏡子からの嫌がらせを牽制する意味での防犯カメラ。それは逆に自分自身の姿を映すことになる。統合失調症になり幻聴や妄想などの症状が現れる精神疾患、なんと狂気の元凶は自分だったのか。

物語は万里の死後、自治会長を解任される後日談まで描く。小さなコミュニティでは、ちょっとした噂がだんだんと大きくなり影響を持ち始める。その同調圧力のような目に見えない不安・不穏そして恐怖を見事に表出させている。親身になるご近所=クリーニング 小河原春、上京して在学中に住んだが 卒業と同時に郷里へ帰るタカトくん。そして いつの間にか知らない人(多い苗字での表現=佐藤、鈴木、高橋)が住んでいる。東京のどこかにありそうな街と人々を巧みに立ち上げている。
次回公演も楽しみにしております。
はねやすめ第2回公演『cocktail』

はねやすめ第2回公演『cocktail』

はねやすめ

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2026/08/15 (土) ~ 2026/08/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初見の劇団 といっても第2回公演だから当然か。内容は 人間の承認欲求のような感情を 或る動物を通して描き出した物語。2幕 年代が異なる連作もの。公演の魅力は観劇歴が浅い人でも分かり易く、それでいて滋味溢れる内容にグッとくるところ。大人になると自分の気持を曝け出すことが恥ずかしくもあり怖い。素直になれない苛立ちに向き合うような物語。

2幕だが、休憩を挟まず手早く場面転換する。暗転してから始まる というスタイルではなく、定刻になったら明転したまま酔っぱらった女性が下手から登場する。さぁ始まりますよ といった構えさせるような出だしではないところが 実に自然体だ。
(上演時間1時間15分)

ネタバレBOX

1幕目は、2幕目にスナックのカウンターになる台や腰高スツール、上手/下手に散乱しているゴミ袋に網が掛けられている。また所々に工事現場で見かけるカラーコーン。後景は「ポイ捨て禁止」「あまい誘惑に負けない」といった看板。ここは深夜の新宿歌舞伎町の路地裏にあるゴミ捨て場といったところ。

終電はなく 缶ビールを何本も飲み干し 酩酊状態の女がゴミ袋に寄りかかって寝ている。そこへ黒ずくめの人、後々 分かるがカラスの擬人化。カラスは女の胸にある光物(ブローチ)が欲しく近づいたが、女が起きたため愚痴を聞くはめになる。女は自分が思っているほど母は自分に関心を示さず、会社での人間関係にも不満と嫌気がさしている。自分の感情を押し 殺し相手の顔色を見て迎合することに耐えられない。本音と建前の使い分けに疲れている。カラス曰く困ったら大声で泣(鳴)けばいい。野生のカラスは一羽では生きていけない、本音で向き合わないと。

2幕目はゴミ袋等に掛けられていた網を取り除き、後景は先の看板を裏返し「スナック 野生」の看板やメニューに変わる。1幕目のカラス、そしてスナックママ、そこへ若い女性が入って来る。初めからボッタクリのような説明--1杯5万円、サービス料400%--しかし身の上話--自分の悩みなどを打ち明ければ90%OFFという奇妙な設定。女は自暴自棄で 金はあるから好きなように飲むと頑な。そんな女を見守るママ、それは遠い若かりし頃の自分をみているようだ。愚痴、弱音は吐かないと言っていた女はポツリポツリと語り始める。1幕 泥酔女=2幕 スナックママという時代間隔ある連作で、あるがままの自分とは、その内省する姿をカラスとの会話を通して描いた心情劇。素直で丁寧な劇作といった印象だ。

野生のカラスは本音で鳴かないと生きられない、一方 人間は本音と建前を上手く使い分けないと世渡り上手とは言えないかも。そこに人間社会の苦悩と妙味があるのかも知れない。明け方近くの星々、夜が白白明といった抒情的な光景が目に浮かぶような台詞。深夜ということもあり1幕目は少し昏く、2幕目は店内の明るさ、その情景変化を表す照明の諧調。音響は カラスの鳴き声や車の騒音といった都会らしさ。その雰囲気作りが良かった。
次回公演も楽しみにしております。

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