実演鑑賞
引きこもりの息子(岡本圭人)と、どうにかして彼を立ち直らせようとする父(岡本健一)を軸に展開する家庭劇。
社会的地位もあり、若い妻との新生活も楽しむ父の、「息子をどうにかしてやろう」とする傲慢さ、愚かさ、そして犯す間違いの数々……。言ってしまえば父親の「凡庸なクズ」ぶりを描くきめ細やかな筆致、演技に引き込まれる。息子を演じる岡本圭人の不安定(不気味にも見える)さ、現在の妻(伊勢佳代)と前妻(若村麻由美)の抱く不安や焦燥も鮮やかに立ち上がり、俳優の演技、そのやりとりを楽しむという意味では充実した時間だった。
多少ドラマティックにすぎる物語とはいえ、「家族」という舞台なればこそ、浮き彫りになる間違い、すれ違いそれ自体は特別なものではなく、共感、共振する人も多いかもしれない。
実演鑑賞
家族の不和を描く劇作家フロリアン・ゼレールの筆の巧みさが冴え渡る一作。最悪の結末が容易に予期できるだけに避けがたく終わりが近づく様が観ているこちらの心も削る。
実演鑑賞
満足度★★★★
昨年だったか、隣の席に座った見知らぬ老婦人に話しかけられたことがあった。岡本健一さんの名前が出て、私が思わず「(彼は)若いのに…」みたいなことを言うと「違いますよ」と笑われてしまった。ええ?と思ってすぐ気がついた。私の中では彼はいまだに男闘呼組のギタリストなのだ(オイオイ)。その岡本さんも今では54歳、共演できる息子(岡本圭人)さんまでいるとは。
その健一さん演ずるお父さんピエール、繊細で尊大な息子テスラ(圭人)に思いっきり苦しめられる。そして離婚した元嫁にも悩まされ、夜泣きする赤ん坊の世話で寝不足になり、良好だった今嫁との関係もどんどん悪くなっていく。それに加えて職業は弁護士で大統領候補の政策案策定にも関わることを要請されているという。
いやあ大変だ。昭和の日本のお父さんならこんな息子は母親任せで知らんぷり(そして全責任を母親にかぶせる)か2-3発ぶん殴るとか押し入れに閉じ込めるとかで終わりなのだ。兄弟姉妹もいるので一人だけ駄々をこねても相手にされないし、近所にも子供がうじゃうじゃいて孤立しにくいという事情もある。しかし、欧米のお父さんはただひたすら家族を愛する。そういう相互依存の関係が悪いんじゃないのか、親も子も自分の中で完結してよというのが私の感想だ(異論多数は承知)。
素に戻るときが時々あったような健一さんに対し、常に小さな精神崩壊のエネルギーを放出している圭人さんの演技には怖くなることもあった。そして唐突ながら、影絵風な暗転が美しい。しかし、2018年にパリで初演、と新しい割に内容は通り一遍で深みに乏しい。そう感じるのはこういう若者のことに関しては日本がずっと先を行っているからだろう。