てふの島唄 公演情報 てふの島唄」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    鑑賞日2018/09/16 (日)

    まず何においても「作り込みの拘り」…というところには称賛の言葉しか浮かばない。「ブラックメリーポピンズ」でも、衣装と小道具だけで時代の空気を作るディテールと質感の拘りは目を惹いたけど、本作では…1500円しかとらない公演でコレ作っちゃうかよ…という住めそうな家屋の作り込み、相当に考証を突き詰めたと思われる生活感のある小道具の数々にはやはり唸る。

    はっきり言って、観客はそんなところまで目が届かないよ…ってところの拘りを、終演後に主宰がtwitter上でじわじわ明かしていっており、圧巻ですわ。

    いやぁもうこれは、誰よりも自分達が喜ぶためにやってるよね、これを手にして演じることで、役者達がこの時代にトリップする為にやってるね…って気がします。

    以降、ネタバレBOXへ

    ネタバレBOX

    【続き】

    勢いで先に音照に触れとくと…、人の心情に寄り添った曲を作る常滑さんの曲は…2組の絆にフォーカスされる話にベストフィット。ユースクエア公演だと物販が無いのが惜しいよね。

    照明は…観劇直後に言ったけど、揺れる水面の演出が…人の心理や運命の移ろいまで予兆させる深みを作り出していて、演出要素の中では最高に好きでした。

    さて、お話のこと。過酷な環境ですら逃げ場所になる様な…重いものを背負った人間達の描写と…2組のカップルの極限下での結び付きが核心として描かれると思う…思うんだけど、演劇集団こちら側は何故「エロ・グロ・バイオレンスをテーマしている」と標榜するのか…というのは今もって疑問なのね。

    様々な制約が厳しいのは理解しつつも、それ自体がテーマだと言われると…その割りにマイルドだった…との印象は否めない。どちらかというと…描き出そうとする人の心情の背景にリアリティを持たせるために…言葉だけで済ましてしまうと記号的になってしまう「安易な逆境描写」から脱するために…「エロ・グロ・バイオレンスを隠さずに描写することを辞さない」という姿勢を表しているんかな…と解釈してます。

    観劇直後に呟いた…「終盤の様々に複雑な心情をリアルに浮き立たせるために…偽りないシビアな世界描写が必要だった…その為のエロ・グロ・バイオレンスなんだな」という感想には、そういう思考過程があった。

    この背景描写が一番効果的だったのは、美社(ミシロ)かなぁ。

    …愛を独り占めするために罪を犯した…と本人が言う割りに、彼の周りにあるのは「暴力」ばかりだった。人気があったにせよ、愛されていたとはとても思えない。「どんなプレイでもやってくれる」という評判が如実に一般客からの扱いを物語っていて、それでも彼がすがれるのはソレだけだった…と思わせる過酷な背景描写。愛してくれる人は樹生(タツキ)に限らずいたと思えるのに…自虐的にそれを拒み…他者のネガティブな迷いや負の感情にだけは鋭敏に反応する… 一種の被害妄想といっても良いけど、…いずれも育った過程での徹底的なトラウマ、自己肯定感の欠如、故だよなぁ。猜疑心の塊と化し、罪を犯した後も復讐と神罰を怖れて負のスパイラルに沈んでいく彼の描写は、人間的な弱さの余りにも極端な具現。

    観た直後よりも、作品を咀嚼していく過程で…どんどん存在感が増して感じられたのが彼でした。客出しで結城さんが開口一番「しんどかったです」って語ったのはさもありなん。カーテンコールでも役から降りずに美社を貫いたのは良かったね。

    なお、美社の心理描写にはアンサンブル(むしろコロス?)を抜きに語れない。こういうの好きだし、時代背景にギャップのある衣装との掛け合わせは一興だったけど、出番が少ないのが勿体なかった気も。いっそ舞台で背景美術と化して、ボソボソと深層心理を呟き続けてくれても面白かったんじゃ…って思ったぐらい。

    ところで、復讐の連鎖を断ち切った樹生の決断もちょっと興味深かった。理性としてはもちろん納得できるんだけど、あのタイミングで首領を押し留めてまで追及を阻んだのは ある種の驚きだった。ただ、社会正義とか復讐の復讐を怖れるチキンさとかよりは、むしろ「美社が背負い続けた負の業」を、美社の為にここで終わらせてやりたかった…って感じかなぁとボンヤリ思います。

    もう一人印象深かったのは、直後にも呟いた一智(イチ)ですね。
    柔らかな物腰、慈愛溢れる印象が特徴的で…しかもあの仕事で…貞操を貫いても周りが許してくれる… 不可侵の天使って感じですね。

    余りにも美社と対照的で…むしろ美社が可哀想になるぐらいの圧倒的な癒し感。それでいながら、自死…いやこれは自殺というのが相応しい苛烈な最期。この落差は凄かった。凶器を抜いてもらう時に全身でジタバタした迫真の演技から…また圧倒的なリアリティが伝わってきて、バイオレンスさではあのシーンが飛び抜けて迫力があった。

    ​​ほとんど文句なしの彼について、唯一 疑問が残るのが、紀葉(クレハ)が実は血を分けた兄弟だった…という設定下で…母の遺した書類を見ての…一智の悲観しているかの様な反応。非情な物言いの様で恐縮だけど、元々が無法の世界に生きていて、しかも生殖を伴わない関係なら、実の兄弟であろうと関係ないのでは…って思ってしまう。むしろ紀葉の語る…「契 以前に…既に家族であったという運命的な受け取り方」の方がすんなり納得できたんだけどなぁ。

    ただ、そういう運命的な繋がりを再認識したが故に、確実に予感できる自分の死の方に苛まれた…とも解釈できるか。紀葉の復讐劇は、実現性こそ ご都合的な無理やり感があったけど、「船による轢死」という…およそ想像し難いスペクタルを描いたのには驚いた。

    あと存在感あったのはムキムキのゴリラ夫婦かねぇ…良い味出てた。スピンオフバイオレンス芝居を予感させる笑

    他にも語るべきところは多々あったけど、発散気味なので、ここらで仕舞い。

    私が生まれた時代の芝居が、意外なところから生み出されてきて、稀有な出会いでしたよ。チケット代の遥か上をいったのは間違いなく、また次の"あちら側"を期待したいところです。

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