猥り現(みだりうつつ) 公演情報 猥り現(みだりうつつ)」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.2
1-8件 / 8件中
  • 満足度★★★★

    そこに客席との対話はあったのか
    恐らく、TRASHMASTERSという劇団が観客に投げかけ続ける最も重要なテーマの一つが、「対話の大切さ」なのだと思います。前作『そぞろの民』と同様、本作でも登場人物たちは激しく議論を戦わせ、互いの意見をぶつけ合います。それは時には会話の自然な流れとしては、幾ばくかの不自然さや唐突さが感じられることはあるものの、激しい論戦は観客を舞台に惹き込み続けるに充分な魅力があり、この舞台の大きな推進力となっています。しかし、今回は前作と比べると、その不自然さを感じる度合いが高かったと同時に、一方の意見に肩入れし過ぎないバランス感が不足しているように思えました。

    不自然さとは、例えば後半の討論の場面で話題が宗教史に及んだ際、 不動産屋の御手洗がテンプル騎士団の資産没収について当然のように話し出す事などです。 歴史の専門家でもなければ熱心なカトリック信者ですらない彼の発言としては、唐突に感じました。

    不自然さを感じたのは台詞だけではありません。イランと日本のハーフであるラシードが、警官に「カード出して」と永住許可証の提示を求められた際、彼は「持ってません」と答えます。しかし、もとより国籍が日本であるなら、その返答はおかしい。その場で国籍を明かして堂々と身分証を出すのが自然な行為の筈です。彼の素振りは、いかにも怪しんでくださいと言わんばかりにも見えました。

    役者が台詞を発するには、まず気持ちの流れがあり、その先に口から言葉が出るという行為がある筈です。その気持ちの流れと行為に齟齬が感じられてしまうと、観客には、役者が台詞を「言わされている」ように見えてしまいます。

    劇中で描かれる主義主張についても、気になった点はあります。

    冒頭の場面でハサンが戸辺に話す「(自爆テロを)発明したのは日本ですよ。」という台詞。一体、いつ日本が自爆テロを発明したというのでしょうか? これがまさか神風特攻隊の事を指しているのであれば、あまりに不見識です。仮に自爆攻撃という手段のみを指しているとしても、そのような攻撃手段が歴史に登場したのは何も日本が最初ではありません。中国地方を毛利氏の前に治めていたのが大内氏である事を知っている程に歴史に造詣の深いハサンという人物が、このような間違いをするとは思えません。

    そして何より、終盤での「自衛隊=人殺し」であるかのような表現。これは呆れるほどの暴論です。能力の無い役立たずが生きていく為には自衛隊に行って人を殺すしか無いというのは、あまりに自衛隊を冒涜しています。中津留さんには自衛隊をそこまで貶めなければならない何か理由があるのでしょうか?

    「 憲法には戦争が出来ないと書いてあるのに出来ると解釈しようとする男たちにはヘドがでるわ。 」という台詞を、終始絶対的正義として君臨する女性弁護士に強い口調で言わせているのは、恐らく中津留さんの主張であり、怒りなのでしょう。政治的主張を演劇に盛り込む事は大いに結構だと思います。しかし、意見の別れる事案については一方に肩入れし過ぎるのではなく、観客に考えさせる余地も残して欲しい。そうでなければ、そこは演劇鑑賞の場というよりも、劇作家の主義主張を聞かされる場にもなりかねません。今回は特にそうしたバランス感の不足を感じました。

    とは言え、主張の強烈さ、そして、誰もが目を背け、見て見ぬふりをするような心の内を引っ張り出して突き付けてくる手腕は、この劇団の大きな魅力でもあります。テーブルを囲んだ討論の場面では、相手の欠点をあげつらう事でしか自我を保てない大学院生が、区議会議員らの反論にあっけなく沈みます。典型的な日本人として描かれるその大学院生をあえて客席に背を向けて座らせる事によって、観客は否応なしに彼に同化させられます。「世界を動かす言葉を探せ!」という区議会議員の言葉はその大学院生の背中を貫き、観客の胸にまっすぐに突き刺さりました。

    「日本人は宗教に寛容なのではなく無関心なだけだ。」というハサンの言葉には、成る程と思いました。確かに、日本人でイスラムの教えを理解している人はそう多くはいないでしょう。自分もこの作品を通して初めて知る事ばかりでした。

    ラストの展開を荒唐無稽と感じるか、現実と地続きの出来事として感じるかはその人次第でしょう。自分には、それが全くあり得ない非現実的な話とも言い切れないような、一抹の怖さを感じました。

    己の言葉も持たない日本人に警鐘を鳴らしたという点で、この作品が上演された意義は大いにあったと思います。

  • 満足度★★★

    時代か
    中津留さんの見る社会は真実を直視していて奥が深い。
    うーん参った。

  • 満足度★★★★

    お馴染み中津留節ににんまりしつつ、「自粛・自主規制・空気読みしない」この劇団が「日本」という集団に叩き潰されないことを祈る
    今回の題材は宗教(とりわけイスラム)。これをめぐって論戦活発、言論を使っての神経戦がとある商店街の異国料理店内で展開する。
     中津留氏の書くものと言えば社会的な事象を真正面から取り上げ、B級映画的とも評される意想外の展開で楽しませる(そこが賛否両論であったりする模様)。人物たちはいたって真剣で、ドラマのリアリティからすれば笑えて良いところ、鬼気迫る演技で笑う余地を与えないというギャップが、TRASHならではの独特な味の源なのだろうと思う。事実、「笑えない」現実はある。問題をあぶり出す状況設定や議論を押し進める台詞に長け、あるテーマを巡る問題群を洗いざらいテーブルに載せ切る… これはなかなか出来る技ではない、というのもリアルな現実ではそんな言葉は吐かれないからである(朝まで討論でもない限り)。中津留氏の戯曲は人がとにかく喋る。観客の気を引くようなフックを繰り出し、論点が次また次とシフトし、つい見入らせられてしまうが、当然ながら、その結果人物の行為としてはそこここに不自然さを残す。近年のお笑いに多い、笑う対象であるところの「きわもの」が突如出現したかのようになる。私などは思わず「うわ〜」と笑う。深刻な問題を考える脳と、奇妙な人間の行動を見る脳は、同時に働いている。この違和感を展開の面白さでカバーする手腕もあるし、作品によっては違和感が限りなく小さいものもあるが、今のところ私にとってはそこがTRASHの持ち味になっている。
    TRASHを観る者はこの両のバランスの一方が犠牲になる可能性を承知しておくべし。この劇団の突出した価値が「現実」への即応性にある限りは。…以上は、一応(私としては)褒め言葉である。

  • 満足度★★★★

    詰め込み過ぎましたか???
    観終わって2日経ちました。
    今思い起こすと、最後の台詞が一番の真実ですね。アリストパネスのテーマでしょうか。
    宗教を分析するのかと思いきや、経済の裏側、性的マイノリティ、テロの実態、識者という者のいいかげんさ…etc.
    とにかく話題が飛躍し、膨らみます。
    個人的には、どれかに腰を据えて語りつくして欲しかったかなと思いました。
    勿論、扱われている事が互いにリンクし絡み合った事象であることは充分に理解できますが、広範囲になってしまったために、フィクションもスパイスにして掘り下げるという演劇本来の(この劇団の良さは正にここにあると思うのですが…)姿からは逸脱気味かなという印象を受けました。

     それにしても、やはりトラッシュは良いですし、是非多くの方々が観て・考えて、自らの意見を持つ事がこの作品のメッセージかな?と思います。

    ネタバレBOX

    自衛隊=人殺しの集団 のような安易な結論は不自然に思いました。
    トラッシュ・マスターズであればこそ、安保に翻弄される自衛隊の存在を丁寧に扱って欲しかったです。
    米国と日本の政治の暗躍
    保障制度の金銭的な困窮や対アジア政策の価値観の相違とか、そんな事を含めて、これはこれで一作品を要する課題でしょうから、余計に安易な片付け方に違和感を感じました。

    原始キリスト教のテロ推奨も触れられてはいませんでしたが、破壊の原理がもたらす物は何なのでしょう?そこを某国が経済再生に悪用するという図式はチョムスキー以後多く語られている事ですが、そこもやはりあっさり系の処理でした。

    「女は命を育む存在」という叫びこそ最も説得力がある台詞でした。
    ならば、そこに至るまでの語り口は少し脱線しすぎかなと思いました。

    重要な事柄がてんこ盛りだったので、やや消化不良気味でしたか…。

    いずれにしても、この類の問題提起はこの劇団の独壇場です。
    次回にも期待しています。
  • 満足度★★★★★

    テーマの重厚さとメッセージ性のバランス
    ここで語られる個々のテーマは非常に重厚で、吟味・議論されるに相当するものであるけれど、代わりに演劇自体としてのテンポが「重さ」に引きずられ、リズムに欠けてたかな。

    それと、個々のテーマは十分に良いけれど、全体としてうまくまとまっているかはこれまたちょっと微妙かな。
    あちこちにトゲ、でっぱり、いびつさが残り、もう少しブラッシュアップ出来る余地があるかと。

    でも作品自体は傑作です。
    再演希望。

    ネタバレBOX

    アフタートークで長田育恵さんが来ておりましたが、登場人物に「違和感がある」とコメントしていたのが、この作品自体のまとまりの未熟さであろうと思います。
    逆に、これが改善の余地でもあるとは思います。
  • 満足度★★★★★

    宗教なんか無い方が・・・
    重厚な宗教論争は見ごたえたっぶり。役者も全員役どころにドンピシャではまっていて、個性的な人物をみごとに演じていた。議論は商店街から飛び出して世界の問題へと発展する。荒唐無稽な部分や理解できない部分も面白い。でも人を精神的に救うはずの宗教が逆に根深い対立の根源(もちろん貧富の差も)にあるのが現実だ。宗教が無い方が人は分かり合える。

  • 満足度★★★★★

    複雑系の世の中
    最近、行きつけのパキスタン料理屋があるだけに、なかなか身近に感じられた作品でした(パキスタンやイスラム圏の人、料理が身近なのであって、テロリストは身近じゃないですよ)。このような作品が出て来たということは、日本の社会の国際化がようやく本格的になってきた証拠。

  • 満足度★★★★

    今回も冴える中津留ワールド
    商店街にあるパキスタン料理店を舞台に強烈な会話劇が進行する。ムスリム、同性愛、貧困。さまざまな個人の事情が交錯し、議論が展開される。荒唐無稽かもしれないが、それぞれの話には説得力がある。

    こうした展開で、社会派劇の中津留ワールドが遺憾なく発揮されている。納得できる議論もあるし、「それはちょっと」と引いてしまう場面もある。

    きっとこの戯曲でも、語る言葉を探し続けているのだろう。武力で一刀両断する現実が世界各地で絶えない中で、登場人物たちの言葉が宙を舞い、見るものにさまざまな思いを引き出してくる。

    会話劇なのでやむを得ないかもしれないが、ムスリムになった女性弁護士のエキセントリックな会話は、もっと抑えた方が。

    ネタバレBOX

    職務上の発泡の責任を問われ首になった若い巡査が、仕事を見つけられない。「人を殺す自衛隊だけは嫌だ」というシーンが印象深かった。

このページのQRコードです。

拡大