太宰治特集 公演情報 太宰治特集」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    衣装にも注目
     J-Theaterの“日本人作家シリーズ”では、2015年特別企画として5人の演出家が平田オリザ、三島由紀夫、岸田國士、吉村ゆう、森達也らを取り上げ、下北で10月末~11月初旬まで公演を打ってきたが、12月は太宰 治。初日公演は19時半から「失敗園」「尼(陰火)より」「貨幣」の三作を上演した。最終日の23日のみ「貨幣」は上演せず「清貧譚」の上演になるので注意。他の2作は全日程で上演される。
     ところで、今作では太宰に縁のある衣装が何点か使われている。原さんが、ご遺族から譲り受けた本物である。例を挙げておけば、銀座、ルパンの初代オーナー高崎さんの着物、太宰が通った三鷹のウナギ屋台若松屋の女将、小川さんの羽織などである。太宰自身、目にしていたかもしれない貴重な衣装に注目するのもグー。
     また、演出では、太宰の幼少時に彼の面倒を見たタケが冒頭、最後に登場するが、この意味を考えてみるのも面白かろう。

    ネタバレBOX

     先ず、驚くのが、作品セレクトの凄さである。太宰作品の中で、今回上演される作品を読んでいる人は少なかろう。だが、各作品の成立年代をみると、何れも時代の転換を意味するようなメルクマール的作品となっており、而も人口に膾炙していない作品である。だが、各々の作品の主人公たちは、人間以外のものであることによって、却って太宰の素の姿を浮かび上がらせ、その人柄を際立たせているように思われるのだ。その余りにも優しく繊細な神経故に無頼派の代表作家となり、精神を病み、薬と酒に溺れざるを得なかった、彼の苦悩を、今またアホな為政者のミスリードによって、地獄の淵に立っている我々は再確認したいのである。
     「失敗園」では、突き抜けた演出が功を奏し、「尼」では、貧乏な男の下に突然現れた尼やその言葉通り、如来が現れること、だが、如来は既に愚か極まりない人々の救済故に疲れ切って瀕死の状態であり、乗った白象は既にとんでもない死臭を発する迄になっている。即ち末法を象徴しているのだ。また、紙幣が主人公の作品タイトルは「貨幣」になっているが、これは、マルクスを読んでいた太宰が、マルクスの資本論に描かれた概念を念頭にタイトルをつけているからであろう。即ち物神性としての貨幣を価値として位置づける資本主義そのものと考えてよい。それは現在、この植民地に蔓延る金銭至上主義と本質的に同質のものである。これら、太宰の主張の根底にある哲学を炙りだした演出にも拍手を送りたい。

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