うしろの正面だあれ 公演情報 うしろの正面だあれ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.7
1-6件 / 6件中
  • 満足度★★★★

    普通でない人と普通の人と
    こたびも別役実テキストの妙味に浸った。名取事務所の『壊れた風景』と同じ下北沢小劇場B1にて。姉と妹の冒頭「枕」を巡るやり取りは、歴史観を巡る「争い」の要素をぎゅっと詰めたサンプルのようで笑えた(現実にある問題を思えば笑えないが)。この姉妹の永遠に続きそうな関係性・距離感は全編に貫かれる。場は玄関に通じるダイニングで呆けた父が「そろそろ茶の時間か」などと言ってそこに出てくる(母はいないらしい)。この父が、台詞で絶妙に絡む。さてある日、妹が朗読の会か何かで知り合い、本を返すように言っておいた相手の男性がやってくる。この「外来者」(そこそこ若い男性)を家の流儀によって組み敷き、ある結末を迎えるまでの顛末。
    まず、二人が発語する言葉の意味は逐語的なそれとは正反対である。その事を、姉は妹について、妹は姉について「外来者」に説明するが、その行為がある狙いを持っていることは、当の二人の(他方についての)説明によって明らかになるという入れ子状態。つまり、姉は「妹はああ見えてあなたの事が満更でもない」と言い、妹は姉の事を「あなたを待っているのよ」と言う。姉妹の様相がこうなるに至り、「異性」問題がその核心に横たわるらしい、と、感づく。

    別役作品は俳優に高度に的確な演技を要求する、という印象が強いが、今回も俳優が印象に残った。男(外来者)の役は姉妹に翻弄されたり、時に意志を示したりの塩梅。父親は呆けていながらある時には妙な説得力を言葉が持ってしまう演技。姉と妹はそれぞれの俳優の持ち味を生かしながら常に対をなして、言い合いにも終りがなく(どちらかが他方を征する結果は来ない)、均衡した関係を維持している微妙な加減。
    姉妹が主役であるが、外来者に対してあからさまに秋波を送るのを憚られる年齢に既にある、その具合も絶妙だった。
    奇妙な会話・・とは言え一応成立はしている会話・・の中に立ち上る香り(異臭?)がやはり別役戯曲のうまみで、癖になる。

    ネタバレBOX

    今回の作のラストも、まるで獲物が蜘蛛の巣にかかり非業の死を遂げるという犯罪オチだった。このオチがなくとも、途中が十分楽しめるので、「お話」としての収まりを付けなくても良いのではないか、と以前別役作品について述べた事があったが、今回のオチはこの奇天烈芝居が「現実」に繋がることを仄めかす。その示唆があった。
    二人の他者(異性含む)に対する(延々続く対話の中で増幅した?)歪つな感性が、「他者」の正しい評価にさらされることなく残存し、後戻り出来ない程に膠着し、偶然彼女らと接触した男が、その犠牲になる。生け贄に等しい。
    ある事実=現実を受け入れることのできない心、にも関わらず、現実の中にある美味しそうなものを、ガチに「得よう」とするゆえに、「想定」と「現実」の乖離は決定的に現前するのであり、この現実を否定するには、それを主張する相手を「消す」のみだった、という事である。
    もし仮に、美しい女優でなく醜女(キャラ?)が演じたとすれば、ベタな現実をなぞる日本残酷物語になるかも知れないし、または一方を美人設定、他方を醜女設定、あるいはその逆パターンなど、観てみたいが・・いつその機会と遭遇できるだろう。
  • 満足度★★★★★

    大人の童話
    を見たようなちょっとブラックがきいている舞台。
    説明文を見てもっとドロドロした感じかと思ったら、可愛らしい女性2人がどうでもいいような事を言いあうのだが、それすら愛らしく夢中になって見続けてしまった。
    父親の不気味な雰囲気もアンティークな部屋に合っていて最後まで楽しめた作品。劇終了後の挨拶に出てきた女性二人の笑顔が素敵で同性ながらついこちらも微笑んでしまった。

  • 満足度★★★★★

    小道具にも注目です。
    揚げ足を取るような口げんかから始まり、言葉の受け取り方、使い方の絶妙さが笑いを誘うのですが、ちょっとぞわぞわするものがそこにあります。
    居間の薄暗さとどこか崩れかけたような風情もなんだか怖いです。
    棚の片隅に飾られたリカちゃんファミリーが、とっても不気味でした(笑)
    役者さんのかもし出す雰囲気も良かったし、せりふのテンポもとても面白かったです。
    一仕事終えた感のあるラストが、なんとも言えません。

  • 満足度★★★★★

    蟻地獄を演じる4人
    舞台には、演劇集団円と文学座からの男女2人ずつの俳優。気の弱い男性が、姉妹と父がそれとなく、意図的に(笑)巻き起こす会話に絡め取られ、蟻地獄に落ちていく。個人的には、今年春から始まった「別役実フェスティバル」参加作品の中で1,2を争う不条理劇の秀作だと思う。

    オールナイトフジのレギュラーで、声優としても知られる山崎美貴の妖艶かつ冷徹な美しさに引き込まれる。その妹役、谷川清美は眉毛を微妙に動かす絶妙な演技を見せてくれる。会場は自由席で座れる下北沢小劇場B1。ぜひ、前の方で観劇されることをお勧めします。

    ネタバレBOX

    気の弱さというか、思慮深い遠慮が命取りになっていく。これは、われわれの日超生活でもよくあること。冒頭に出てくる姉妹の枕をめぐっての会話は、その後の強烈な展開を予感させる、秀逸な場面なのでご注目!
  • 満足度★★★★★

    どうにも可笑しい
    はじまりから終わりまで、笑い通しだった。
    むふ、がはは、くす、っと、出てくる笑いの質が多彩にあった。
    登場人物それぞれの話がズレにズレて、ズレたままに積み重なっていく。どしどし進んでいく。
    ひとり合点に思い込み、妄想、主導権争い、押しつけあい・・・。
    席で観ながら「しょうがねえなあ」と口をあけて笑っていると、ふと他人事でない自分に気づかされる。
    きっと、世間はこんなことばかり。でも、こんな風にズレていく人と人との姿を眺めていると、何だか急に人が愛おしくなってくる。
    バカバカしくてナンセンスで、ああ、いいなあ。
    芝居もまた、素晴らしい。
    姉妹のおかしな会話のなかで、顔を寄せた女性の方が、かすかにウインクするところ。あれ、僕のいた辺りからしか見えないんじゃないかな。ゾクっとしました。何だか、すごく得した気分。

    ネタバレBOX

    ずるずると、引きずりだされる「チューブ」。
    あの、引きずり出す男がだんだん怖くなってきて手を「はっ」と離すところとか、それでも「もうちょっとだけ」と引きずり出してみようとするところなんか、素晴らしいなあ。
    あの「だんだん軽くなってきましたよ」の先に何があるのか、どこまで伸びていたのか。生涯忘れられないシーンになりそう。
  • 満足度★★★★

    かもめ
    チェーホフの「かもめ」を御存知の方には、驚きのラストシーンかもしれない・・・。舞台裏で起こる「出来事」がとても重要な意味を持つことに気が付くだろう。

    別役氏の脚本が斬新なのは、ひとつの中心が無いということだけでなく、登場人物の間での意思疎通の不一致。互いにどこまで相手の気持ちがわかっているのか、観客にもよくわからないような描き方にある。

    登場人物の、ひとりごとのようにも聞こえる台詞がリフレインする。
    ―わからないものは、わからない。だからわからなくていいのだ―

    ネタバレBOX

    古い屋敷に棲む中年姉妹と、その父親らしき老人。
    皆、自己完結せず、どこか中途半端な「生身の人間」たち。
    彼らの生きる世界は本質的に喜劇でしかない。

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