満足度★★★★
独特の世界観と筆致
「バルタン」神奈川県立青少年センター 多目的プラザ 70分
ワークショップの成果発表というのが大元のコンセプトのようだが、これはその成果発表のレベルではなく、番外公演と銘打つ気持ちもわかる。
会場に入るなり目につく机と椅子。そして美しい照明。
この作られた空間が美しくもあり、ある種異様な雰囲気を感じさせもする。
非常にシンプルな舞台装置なのに物凄く丁寧に世界観を作っている印象だった。
照明が付くとそこには何かを作っている男たちが数名。
男たちの関係性は見え隠れするものの物語の本筋が見えてこない。
しかしながらそれをずっと見ていられたのは役者の集中力と細かな演出のなせるわざなのではないだろうか。
感情の機微やそこに至る過程を緻密に見せていたように思う。
一人の男を煽るように話をしていく4人の男。そこから、この空間が捕えられている者達によって構成されていることがわかる。
そしてこの不透明な異様さは唐突に表れた二人の女子高生によって明かされる。男たちが捕えられ、逃げられなくなっていること。
この場を支配しているのが女子高生であること。
そして女子高生の機嫌によって「バルタンゲーム」が行われ、それに負けたものは死を迎えなくてはならない。
そこから逃げ出せないがそれでも生きていたい男たち、死を与える立場だが、同時にそこに少しの疑問を抱く女子高生。
この大枠の2つのラインから外の世界を見せていくことはなく、あくまでこれを個人の問題として落とし込んでいるような印象を受ける。
近年でのイスラムの問題等に絡めていると感じる。
私がとても好ましく思ったのは、この状況説明や関係性を殊更に語るようなことをしていない脚本に対してだ。
役者、演出家は想像力を最大限に駆使せねばならず、なおかつ本の意図も組んでいかなくてはならない。
とても大変な作業を強いられることになるが、それを表現できた時、フィクションでありながら強いリアリティを感じさせる作品が出来上がるのではないだろうか。
私は当団体は初見であるが、作家 椎名泉水の描く世界観というものをより深く理解したい、という衝動に駆られた。
社会的なテーマを扱いながらも、ある種の虚構性を持った世界として描こうという姿勢が好きだった。
そして驚くのは当日パンフレットの文章だ。舞台を見たあとにもう一度読み返すとその世界観がしっかりと伝わってくる。
もちろんすべてが100点の舞台など存在するはずもなく、全てが素晴らしいというわけではない。
個人的にはあとほんの少しだけ、結末に向かう各々の関係性が見られる部分があってもよかったとは思うが、これは本当に私の好みでしかない。
この世界観を野暮ったく語りすぎることで作品の精度が落ちることは間違いなく、そのバランスが非常に難しい脚本であると感じた。
こういった少し重めのテーマを扱う作家は個人的には大好きだ。恐らく今後も通う団体になるだろう。きっと私は椎名泉水の世界観の片鱗しか見ていない。
満足度★★★
素朴に、ひたひたと。
神奈川で地道に活動し、時々耳にする劇団。脚本•椎名泉水という武器を持つ。数えてみるとstudio salt観劇は今回で3度目。多くを語らず、言い切らない脚本、という印象が共通である。ただし題材は多様で、標的の題材から物語を紡ぎ出す、独自の劇作法があるのかな・・と想像させる。
会場はJR桜木町駅から徒歩10分、神奈川の演劇の拠点の一つである青少年センター(急坂の紅葉坂を登った所)の多目的ホール。横に広くステージを取り、客席も横長に設置する事が多い。でもって、黒尽くめでなく「劇場」より「部屋」の雰囲気を残す、そういうよくあるスペースだが、今回、会場に入ってまず舞台の使い方のうまさに気づく。古い学校机が一面、ランダムに(多方向に)並び、その幾つかに照明が当たっている。奥の壁の左右の端に備え付けのドアがあり、その二つだけが人物の出はけの場所だ。
開幕、漆黒の暗転のなか音もせぬ迅速な板付き。おのおのの机に座る数名の男らの会話。抜き差しならぬ状況が語られ、噂の「抜き差しならぬ相手」がやがて登場する。夏制服を来た女子高生(とみえる)二人だ。あっけらかんとしたトーンとは裏腹の、冷酷。「状況」についての事細かな説明はしないが、時代が近未来であり、端からみれば異常な事態を、維持し使命を遂行しようとする二人の間の、あるいは自身の内面との葛藤、そして受動的にそこに置かれた男達の、外的状況を巡っての葛藤、両面が描き出されている。
BGM無し(あっても悪くないと思ったが、選曲には悩むかも)。淡々と時が経過する静寂の中から、ひたひたと、じわじわと何かが突き上がって来る「兆し」が、見えた。
芝居の「濃度」×時間の短さ、により星三つ。