役者と観客が一対一で巡るツアー演劇。 Port B やリミニ・プロトコル、長島確らの試みに通じ、 ポストドラマ演劇の中の「劇場から社会へ、虚構から現実へ」という流れの中から生まれてきた作品のひとつだろう。 そういう意味では、殊更度胆を抜かされるコンセプトではない。
だが、同じようにツアーパフォーマンスを行い、土地の記憶の問題などをテーマにするPort B とソ・ヒョンソク演出『From The Sea』では、微妙な違いがある。 <私は、Port B の作品を初めて体験した時(『東京/オリンピック』(2007))も、強烈な印象を持ったので、どちらが良い悪いということではない> その違いが非常に刺激的だった。
Port B は徹底して世界に直接的には介入しない。まるで「人は世界に介入などできないのだ」と問いかけられているかのように。観客と世界との間には、常に一枚のガラスのような仕切りが存在し、観客は世界を対象化しながら、その世界と自分との距離について考える。
それに対して、『From The Sea』では、役者が観客の手をとる。また、そこで会話も生じる。そのことによって、私と世界との間に直接的な関わりができる。ここから生まれる可能性に圧倒されたのだ。