満足度★★★★
演劇は、身体レベル、即ち役者の演技レベルで対比がなければ
恥ずかしながら、大杉 栄と伊藤 野枝の事を詳しく知らないので、史実に即して描かれているのかどうかは分からない。然しここに、描かれている通りだとすれば、実に、粒の大きい傑物達である。自分も今迄、所謂女傑に何人かお会いしている。そういった方々の持つ独特の人間的大きさから、この二人を推し測ってみたのである。その結果、ここに描かれている通りだとしたら、実に大きな人物達であった。
そう言えば、宮武 骸骨のような傑物もかつては、この国に居た。ペリーが、一目も二目も置いたと言われる佐久間 象山然り。因みに象山は、勝 海舟に西洋兵学を学ぶようサジェッションを与えたりもした人物だ。
脱線してしまった。今作では、大杉の人物を描く為に、野枝、神近 市子、堀 保子との四角関係をかなり派手に扱っている為、革命的な部分や、敵対関係の凄惨な部分は、出て来ない。このことが、作品を一面的なものにしていることが残念である。演劇は、対立を通して観客に考えさせ、己の立場を選ばせる。然るに、今作は、作る側の論理や想いが優先しているように感じられたのである。主張、演技等のレベルの問題ではない。然し、他者の目で自らを抉って居ないように感じるのだ。ランボー流に言えば“生きながらポエジーに手術され”というレベルが無いのである。それは、対比されるべき歴史的背景が単に知識として処理され、ここで描かれた男女関係のように、演技として身体化されていないからである。比重がまるきり違うのだ、残念!それさえあれば、★5つなのだが。